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2024/11/23 04:51 |
6月拍手お礼文
泣き出しそうな空、という台詞がある。
其れに倣うならば、今の天候はさしずめ癇癪を起こした空だ。
右から左から叩きつける雨が大袈裟でなく弾丸のようで、悲鳴を上げながら人々が逃げ惑っている。
ならば自分はさしずめ敗残兵だと、益田は呆然と荒れ狂う景色を見上げた。
ずっしりと重そうな雲と濡れた地面に挟まれ、モノクロームの視界の中で自分の頭の上に被さる軒だけが妙に浮かれた赤色をしている。
二人組の女学生がきゃあきゃあ騒ぎながら雨宿りに入ってきて、少々居心地が悪い。益田はそっと身を端に寄せた。
強い雨が水溜りに落ち、跳ね返った雨水が制服の裾を酷く濡らす。
流れ弾を食らったなと思いながら、色を濃く染めた生地を見下ろしていると、目の前でぱしゃりと水が跳ねた。雨では無く、誰かの靴によって蹴立てられて。

「何俯いてるんですか、益田さん」

顔を上げると其処には、見慣れた後輩の顔。それから、見慣れた蝙蝠傘。

「亀ちゃん、迎えに来てくれたの」
「どうせこんな事だろうと思ったんだ。何やってんです、傘も持たないで」
「いやぁ、多少の雨なら濡れて帰る心算だったんだけどね!いやぁわざわざ有難う、亀ちゃん大好き」

雨音があまりに煩いので、少し大きな声が出る。
亀井は少し肩を竦め、傘の柄を握り直した。入れ、と云っているのだろう。
薄い生地で出来た仮初の屋根を、雨がしきりに叩いている。
益田はさっと手を伸ばして柄を掴むと、くるりと振り向いた。心細げに空を見上げていた女学生達が、気づいてはっと身を竦めた気配がする。

「お嬢さん達、この傘使う?」
「えっ!?」

突然の申し出に面食らったのは女学生達ばかりではない。
益田は亀井の手からするりと傘を奪うと、詰んだ花でも渡すような何気無い仕草で少女の前に差し出した。

「雨が止んだらね、適当な交番にでも渡しといてよ。亀井の傘だって言ったら多分解るから」

女学生達は互いを見つめたり、益田を見上げたりと急がしそうに視線を泳がせたが
やがて華奢な手を傘に伸ばし、それぞれがぺこりと2人に頭を下げて軒下から出て行った。
傘の下で翻る制服の裾が、水煙りの中に消えていく。
笑って手を振るのを止めた益田がちらりと傍らを見ると、女学生達の代わりに亀井が憮然とした顔で立っていた。

「――何してくれてんですか」
「だってさあ、あの子達見た?あんなに雨に濡れて寒そうだったし。三つ編みをハンカチーフで絞る姿がいたいけでもう」
「そりゃ益田さんもでしょう」

さっぱりと切り揃えられた前髪が、幾筋か額に張り付いている。
是とも否とも答えずに益田がへらへらと笑うので、亀井は諦めて天を見上げた。
癇癪は収まる様子を見せず、遠くで雷鳴すら聞こえ始めている。

「どうすんですか、益田さん」
「しばらく雨宿りしてさ、駄目そうだったら仕方ないから濡れて帰ろうよ。たまにはいいんじゃない、こういうのもさ」

そうして途切れた会話を、煩いほどの雨音が埋めている。
なんとなしに亀井の横顔に目をやると、亀井も自分を見ていたようで。一瞬だけ視線がぶつかったが、亀井の方が決まり悪げに眼を逸らしてしまった。
軒を雨が叩く音に紛れて、益田は肩を揺らして笑う。


―――
身内の亀益流れに乗っかってみました(お…遅い…)
簡単に言える大好きと言えない好きについて。



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2010/07/31 16:30 | Comments(0) | TrackBack() | 益田

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