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2024/11/27 01:47 |
5.そんな貴方に、私は

桜の木のように堂々と立ち、ふわふわと軽そうな栗色の髪が揺れている。
きらきら輝く飴色の瞳は、世界の全てすら見渡せそうだと思う。下僕の浅薄な心中ならば尚更だ。
その視線は僕を突き抜けて、何処か知らない世界を視ている。
貴方が壊した世界は今、少しづつ組み立てられている。
認めるしかないのだ、其処には貴方が居なければ。
なのに貴方は待ってくれない。意気揚々と、何処までも走っていってしまうから。

貴方に名前を呼ばれたなら、僕は何処でも付いて行く。

「マスヤマ!」

そんな貴方に、僕は。






 

柳の木のようにゆらゆらと立ち、しっとりと重そうな黒髪が靡いている。
妄信に鈍った黒い瞳は、僕の背中ばかり追っている。神の心中も判らない癖に。
その視線は僕の表層で立ち止まり、狭い世界の物差しに閉じ込めようと躍起だ。
お前が作り直した世界は今、一寸の揺らぎで又崩れそうだし。
認めたくは無いが、此処に僕が居てやらねば。
だけど僕は待ってやらない。意気消沈のポーズで、何時までも立ち止まっているな!

お前は名前を呼びながら、僕に何処でもついて来い。

「榎木津さん」
 

そんなお前に、僕は。


 

――――
面霊気を読み直して「榎木津→益田もあって然るべき」と思い、
とりあえず榎木津と益田について壷ポエム風に(…)整理。
正反対の2人が交差する瞬間を狙う日々です。



 

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2009/03/08 01:56 | Comments(0) | TrackBack() | 益田
4.我儘なんて聞いてくれなくていいのに

日が傾きはじめ、京極堂の軒先にも暗い影が落ち始めた頃。

「やっぱり此処にいた」

すら、と障子を開けたのは益田だった。四方を古書に囲まれた座敷に居るのは、この世の災難を煮詰めて飲み干しでもしたような顔をしている中禅寺と、猫のように背中を丸めて眠っている榎木津である。本の頁を捲る指が止まり、やっと迎えが来た、と言った。

「早く持って帰ってくれ、邪魔で敵わん」
「元より其の心算なんですけどね、折角大人しく寝てるし少々休憩させてもらおうかなーなんて」

嗤いながら座り込む益田に、中禅寺はやれやれと頭を振った。勝手に座布団を引き寄せて、居座る気配すら見せている。

「前にも云ったが、榎さんに似てきたね。それも悪い処ばかり」
「滅相もない、僕ぁこの人みたく我儘じゃあありません。さっきも其処で奥様にお会いして」

お茶でも如何?って言われたんですがいえいえ僕ぁ主人を迎えに来ただけですのでお気遣いなくと言って礼儀正しく入ってきたんですから、と胸を張る。
中禅寺は眉を顰め、「そう云う所が」と言いかけて止めた。話を聞かないという点まで似てしまっている気がしたからだ。飼い主とペットは似るというが、探偵と探偵助手にも適応するのだろうか。ちらりと見た益田の顔は、生憎以前と変わることなく黒髪に覆われ、吊った目をしていた。顔に何か付いているとでも思ったのか、その手が尖った顎をなぞる。

「こんな男の我儘なんて聞いてやらなくていいのに」
「いやぁもう慣れました。最近では僕の対応もソツがないもんです。ツーと言えばカーと言いますか、喉が渇いたと言えば茶と言いますか」

身振り手振りで茶を出す仕草までしてみせる益田は少し得意げですらある。褒めたわけでは全く無い。喉が渇いたなら飲み物の類を出すのも当然だと思うが、以前は干菓子でも出していたと言うのか。茶も出していないのに妙に滑りの良い益田の舌は留まることを知らない。

「大分榎木津さんのお考えも解るようになっちゃって」

その言葉を聴き、中禅寺の眉がぴくりと動いた。

「大きなことを言うね」
「まぁ中禅寺さん程じゃあないと思いますが、薔薇十字団随一という自負はありますとも」
「自負はあっても、自信は無いわけだね」

きょとんとしている益田と未だすやすやと眠っている榎木津を同時に見て、中禅寺はそう言った。榎木津が彼をバカだのオロカだの言うのも解る、と思うのはこんな時だ。榎木津曰く神である探偵になりたいと言う彼はやはり人間であり、榎木津の表層にばかり囚われ、一挙一動に振り回されている。まさに「取り憑かれた」ような妄信ぶりをこうも見せ付けられては、らしくもなく、手助けしてやりたくなるではないか。
僕が口を出すのも無粋だが、と前置きして中禅寺はその指先を寝転んでいる榎木津に突きつける。

「いいかね益田君、こいつは―――」
「だァれが我儘だッ!」

バネ仕掛けの玩具のような勢いで、榎木津が跳ね起きた。ぐるりと首を回し、益田と中禅寺を交互に見ていた鳶色の瞳は、最終的に中禅寺を睨みつけた。その頬には畳の跡が残っている。

「京極、あまり下僕を甘やかすな。こいつは直ぐ図に乗る」
「甘やかしているのはどっちだよ」
「知るか。おいバカオロカ、ぼくの居る所何処でもフラフラ現れて何の用事だ」
「夕食に呼びに来たんですよ。和寅さんがカレー作って待ってますから」

榎木津さんのご要望で、と言ったところで中禅寺が噴き出した。細い黒髪の隙間から、人の悪い笑みで榎木津を見上げている。榎木津は歯噛みして、不機嫌の矛先を益田に向けた。案の定益田は肩をびくつかせ、榎木津の心を苛立たせると同時に、少しだけ満足させる。

「慣れたとは随分な言い草だったな、カマの癖に」
「カマ関係ないじゃないですかぁ、僕ぁカマじゃないですから余計関係ないですよ」
「カマでもウマでもどうでもいい!」

榎木津の顔がずいと益田に寄せられ、益田は身を強張らせた。この美貌と強い瞳を直視するのには、どうしても慣れない。畳の跡が未だ消えてない、とどうでもいいことを思った。
すぅ、と榎木津が息を吸い込む。
益田は身構え、中禅寺は本を閉じた。古書に唾でも飛ばされては堪らない。
2人の予想通り榎木津は大声を出したが、予想と違った点もあった。

「喉渇いた!お茶!あと饅頭!粒餡は嫌だゾ!やっぱり紅茶!紅茶に饅頭は合わないから、やっぱりお茶でいいや!寒い!毛布借りてこい!座布団がないぞ!ずっと僕を好きでいろ!退屈だから何か面白いこと!肩凝った!眠い!枕!ん?やっぱり眠くないな、お茶早くしロ!早くーーーーー!」
「え?え?」
「2回は言わない!さっさとする!」

予想を超えた勢いで矢継ぎ早に繰り出された指示の数々に、益田は目を白黒させる。対応しきれない。実際後半は驚きで思考が止まってしまって何を言っているかも良く憶えていないのだ。お茶と、饅頭と、紅茶と…紅茶は要らないのだったか。
指折り数えておろおろする益田を榎木津が睨んでいるので、益田はとりあえず立ち上がって座敷を飛び出した。
ばたばたと益田の足音が遠ざかるのと入れ替えに、千鶴子がひょいと顔を出す。愛用している盆の上に、人数分の湯飲みを携えて。

「折角お茶を淹れたのに、もうお帰りになったの?」
「そのうち戻ってくるだろうから、その辺に置いてやってくれ」

走り回って喉が渇くだろうから、冷めた位が丁度良いだろう。
それにしても何だあれは。あれでは――通じるものも通じない。
自分は熱い茶を啜りながら、中禅寺はぶすくれている榎木津の横顔を見やった。その瞳は庭に、いや、下僕が転げるように駆け下りたであろう眩暈坂に向けられている。
益田の愚かさと間の悪さ、2人の似たり寄ったりな不器用さを思い、つい零れた溜息が湯気を吹き飛ばした。

「…こんな男の我儘なんて聞いてくれなくていいのに」
「我儘じゃない、命令だッ!」

これだから、と中禅寺は呆れ顔をし、それを見た千鶴子がころころと笑う。
沈み行く夕陽が益田の道行きを辛うじて照らしている刻限のことだった。


――――
益田かわいい(他に言うことはないのか)
中禅寺の出る話は台詞が増えて地の文が減ってしまうのが困ります。台詞が多いのはいつもだった。技量不足。



 


2009/03/08 00:00 | Comments(0) | TrackBack() | 益田
Web拍手お返事です

Web拍手お返事です。ありがとうございます。

>蒼月様
おはようございます。『3.一番じゃないから~』をお読みいただいてありがとうございます。
榎木津全く出てこないにもかかわらずご感想まで頂けるとは、あわわ申し訳ないという心持ちで一杯です。
薔薇十字恋愛部に青木も入部しそうで益々カオスを極める当ブログではございますが、当て馬系は私としても望むところではないので、関係者全員の幸せを探しつつ益田を幸せに出来たらいいなと思ってます。
ブログの検索避けの仕方が解らないので貴サイトに繋げることが出来ないのですが、日々京極サーチ様から足を運ばせて頂いております。
蒼月様宅の榎益は何でもない毎日がスペシャル!な感じがして頬が緩みます。本ジャンルでの更新の合間に、益田を思い出してやってください。
益田を幸せに、という初心を忘れず行けるところまで頑張ります。ありがとうございました!
 
叩いてくださった方も、ありがとうございます。



以前ちらっと言った「告知して行うチャット」の日程ですが、4月4日(土曜日)の夜にしようかと思ってます。
3月3日は女の子の節句、5月5日は男の子の節句、ということは4月4日はカマの日じゃないかー!しかも週末!こんな機会はなかなかない!と思った次第です。
折角思いついたので忘れないうちに言っておこうということで、一応此処で暫定告知。
文字チャットの方が益田話に集中出来るかな、と思いつつも皆様の益田絵が見たいという欲望のままにお絵かきチャットも借りちゃおうかな、などと考えてますが、管理人が絵が得意でないので後者は申し訳ないかとも…ハイエナ的な発想だし…
バナー画像を100%サイズで表示する方法もわからないからログもまとめられない、それ以前にパソコンの修理は終わっているのか等々欝スパイラルに陥ったので楽しいことだけ考えます。

マスカマチャットもとい益田チャットは4月4日(土曜日)~4月5日の行けるところまで(…)です。
益田好きさん、宜しければ遊びに来て頂けると嬉しいです。


2009/03/07 09:36 | Comments(0) | TrackBack() | 雑記
3.一番じゃないから居心地がいい
「やっぱり鳥口君が一番話しやすいなあ」
「それはこっちの台詞。なかなかこんな話出来る人いないすよ」

彼らが飲み屋の隅に席を取る時の決まり文句だ。
乱雑な喧騒の中に隠して、心に秘めたものを少しだけ並び立てる。それらを肴に、からかったり、囃し立てたり、慰めあったりするのだ。
宴の終焉と共に元通り仕舞い直す頃には、以前よりは整理がついている。整然とさせていれば、また暫くは惑わされることもない。少なくとも益田の方はそう信じていた。
やがてつまみも切れて、手持ち無沙汰な箸先で散らばった刻み葱を転がしていた彼らの耳に、柱時計が打つ音が聞こえた。

「もうこんな時間かあ、どうする?」

鳥口も伸びをして、酔いの回った頭で考える。少々呑み足りないが、財布の方が心細いのも事実だった。安酒とは言え、このまま行くと2,3日は水で暮らす羽目になるかもしれない。そう告げると益田は「鳥口君てば正直だなあ」と言って、けけけと嗤った。彼はこんな嗤い方を何時覚えたのだったか。

「じゃあ宅呑みにしようよ。実は今朝出掛けに実家から一升瓶が届いてね、あれきっと酒だから」
「うへぇ、そいつは私に鮒。つまみは缶詰でもあれば言うことないっすね」
「へえ鳥口君鮒が好きなんだ。って、それを言うなら渡りに船!」

ひとしきり笑いあった後、2人して飲み屋を後にした。




益田のもとに届いたという一升瓶だが、開けて吃驚。酒どころか、酢だった。益田は瓶のラベルをためつすがめつして呆然としているし、鳥口は笑い転げている。眺めていても酢が酒に変わるわけもなく、益田は瓶を抱えたまま引っ繰り返った。ごん、と鈍い音がしたが酔っているためか気にも止めない。

「なんで酢なんか送ってくるかなあー!」
「今度は味醂を送ってもらうといいすよ、アルコールには違いないし」
「甘露煮になっちゃいますって」

また笑う。寝転がったままで大笑いしていた2人だったが、ふと顔を上げた鳥口は、益田の動きが少しおとなしくなってきたことに気づいた。

「大丈夫すか益田君、呑み過ぎ?」
「いや、力抜けたら眠くなってきちゃって…」

這うようにして部屋の隅に畳んであった布団に近づき、もふりと飛び込んでそのまま動かなくなった。鳥口は慌てて、益田を引き剥がす。酔った状態でうつ伏せに眠ったら窒息する。ついでに抱きしめられていた酢の瓶も引き離す。
目も口も半開きでぐったりとしている益田を支えながら、足で適当に布団を広げた。

「しっかりしてってホラ、今布団敷いたから」

鳥口君やさしーい、等と言っている益田はもはや半分夢の中のようである。寝ぼけたような口調で、つらつらと繰言を述べていた。

「榎木津さんも酔っ払ってその辺で寝ちゃったりするんで、僕ぁいっつも苦労するんですよう。猫の子じゃないんで運ぶのも大変ですしい、起きてても余計煩いんで僕ぁもう生きた心地が、うわあ」

益田のお喋りは、鳥口が彼を布団に投げ落としたことで中断された。
未だぼんやりしている益田の首からタイを引き抜いてやる。痩せた喉元に少しばかり規視感を憶え胸が打ったが、今夜は月が明るすぎる。
首が楽になったのか、益田はふう、と深い息をひとつ吐いた。

「もう寝な」

明かりを消してやると、部屋は暗くなった。月光のためか、何処か蒼い。
もう眼を閉じている益田は、口元に薄い笑みを浮かべてぽつりと呟いた。

「…鳥口君といる時が、一番安心できるなあ…」
「お世辞はいいって」

お世辞じゃないのにぃ、という声はすぐに小さくなり、寝息に変わった。後顧の憂いも何もないかのように安らかに眠る益田の貌を、傍らに膝をついた鳥口が見下ろしている。すでに酔いは醒めはじめていた。

「仕様がないなぁ、益田君は」

益田の頭部をぽん、と叩いてやる。眠りに落ち始めた彼には、慰撫に思えたかもしれない。
鳥口は益田より少しだけ解っているのだ。益田が一番に求めているものは、此処に居る内はきっと見つからないということを。

心の全てを打ち明ける相手も。
安心出来る場所も。
心を預けて眠れる時間も。

―――しかしどうすれば益田が気づくのかまでは、鳥口にも解らない。だから受け入れる。それしか出来ない。


今は眠る益田の髪に白い光がかかっている。ばらりと額にかかった長い前髪をそっと捲った。それは正しく慰撫の仕草。
鳥口は立ち上がり、窓にかかるカーテンを静かに閉めた。
何もかも照らし出す程の月明かりから、益田を守るように。

「おやすみ」

暫定的な一番で居よう。自分か彼の、どちらかが辿りつくまでは。


――――
薔薇十字恋愛部ですが、『1.私以外の~』と合わせると益田がとんでもないやつに見える…。
鳥益、青益等の薔薇十字系統文は、榎木津への好意を自覚・無自覚の狭間でさ迷う益田を絡めて書いているつもりです。それにメンタル重視で付き合うのが鳥口、フィジカル重視で付き合うのが青木って感じでしょうか。あっでも鳥口と益田もやることやってたり…うーん未だよくわからない。深いです、益田。
そしていつになく長いキャプション(≒言い訳)



2009/03/07 00:00 | Comments(0) | TrackBack() | 益田
Web拍手お返事です
Web拍手お返事です。ありがとうございます。

>真宏様
『2.これ以上を望んでいたわけでは』へのご感想ありがとうございます!
益田と榎木津のみならず私もしあわせでございます…。にこり!おそまつさまでした。
幸せな話好きですが、真宏様の語り場絵のようなナキヤマにもなんかこう…ムラムラします(自重)
原稿でお忙しいところ、遊びに来て頂いてありがとうございました。
またお暇な時に覗きに来てやってくださいませ。

>3月6日 2:25の方
はじめまして、ハム星です。拙文をお読み頂けてうれしいです。ありがとうございます。
『2.これ以上を~』にご感想頂きましてこちらもドキがムネムネしました(昭和)
是非貴方の益田にもケーキを食べさせてあげてください。上から下から(?)
ありがとうございました!

>蒼月様
おはようございます、日参のご報告ありがとうございます。とても嬉しいやら申し訳ないやらでございます。
毎日毎日明けても暮れても益田益田なのは、ひとえに益田かわいさなので世界にもっと益田が増えればいいと思ってます。
なので、蒼月様の榎益創作のきっかけ作りに助力できましたのはこの上ない喜びです。益田増やしてください!(?)
苗字だけなので確信が持てないのですが、蒼月様も榎益コンテンツお持ちですよね?更新楽しみにしております。ありがとうございました。


叩いてくださった方もありがとうございます。



『2.これ以上を~』、書きながらあまりのことに
「これは益田界で浮いている」と思い煩悶しながらの掲載だったのですが、朝から反応沢山頂けて嬉しいです。
当ブログのお客様が好きなのはエロではなく甘さなのではないだろうか!と思いました。私も好きです。
そういった榎益が好きなので、必然的に百器も大好きです(京極先生に謝れ)

と言いつつ、今夜の更新は榎←益前提の鳥益を予定しております。
萌えの赴くままの活動なのでこういったことも起こります。スミマセン本当。

2009/03/06 11:39 | Comments(0) | TrackBack() | 雑記

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