忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/11/23 08:23 |
11月拍手お礼文
視界の端を鮮やかな紅が横切ったのを感じ、益田は振り向いた。
両親に手を引かれて歩く少女の後姿が見える。緋色の振袖に、踊る飾り帯。
もう顔は見えないけれど、きっとその頬は林檎色で、笑顔に満ちているのだろう。

「そっか、七五三か」

益田が見送っている事も知らず、幸せそうな親子は交差点を曲がって消えた。
益田もビルヂングの入り口を潜り、階段を昇っていく。
あの華やかな赤を見て、自分まで何だか浮かれた気分になっていた。
昇り調子の心地もそのままに、扉を押し開けてドアベルを鳴らした。

「ただい―――わぁ……」
「ム、バカオロカ」

果たして其処に居たのは榎木津で、色素の薄い瞳がぎゅっと益田を捉える。
長い脚を探偵机の上に投げ出して、両腕を頭の後ろに回して。其処までは良いのだが。

「もう襦袢一枚じゃ寒いでしょう…」

真っ赤な襦袢と黒い革張りの椅子の対照が目に痛い程だ。
榎木津が立ち上がると襦袢の裾もふわりと流れ、水中を舞う金魚の尾にも見える。
今しがた見かけた少女の面影を思い出し、益田は思わずくすりと笑った。

「お前も食べるか、千歳飴」

突如剣のように突き出された長細い飴を前に、益田の目が白黒する。

「ちょっと、これ何処から出てきたんですよ」
「此処」

榎木津は机の引き出しを引っ張って見せた。
本来書類や文具が入っている筈の其処には、代わりに紅白の飴がぎっしり詰まっている。

「そういう事云ってるんじゃないんですけど…」
「食べるのか、食べないのか、ハッキリしロ!」

そう云う榎木津は既に白い飴に歯を立てている。
益田もつられて口内に飴を含み、そっと舐めてみた。懐かしい甘さだ。
抜けるように青い空は、様々な色を抱きかかえながら、今日も澄んでいる。

―――
35歳児の七五三。



PR

2009/12/01 00:04 | Comments(0) | TrackBack() | 益田

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<2009年中の拍手お返事です | HOME | 愛情上手>>
忍者ブログ[PR]