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2024/11/23 09:32 |
8月拍手お礼文
かんかんと照りつける日差し。真っ青な空に盛り上がった入道雲。神保町にも夏が来た。
薔薇十字探偵社にはこの時を待っていた設備が幾つか運び込まれる。
一つはそよそよと室内の空気を掻き混ぜる扇風機。もう一つは、寅吉が額に汗してハンドルを回している氷削機。
向こう側が透けて見える透明な氷は、がりがりと音を立てながら削れて下に置かれた容器に積もっていく。
柔らかな氷山はシロップをかけられて僅かに崩れ、それでも白い冷気を漂わせながら運ばれた。

「へいお待ち。先生はイチゴ、益田君はメロンだったね」
「有難うございます、夏は氷ですよねぇ」
「わーい」

子どものように手を叩く榎木津の額にも、少々汗が滲んでいる。
長いスプーンを表面に突き立てると、色のついた氷がほろりと崩れた。
口に入れると甘さと共に新鮮な冷たさが全身を駆け抜ける。

「つめたっ」
「うははは、甘いなぁ。冷たいなぁ。氷は実に偉い」

良く判らない褒め言葉を述べながら、榎木津は凄い速度で氷を突き崩していく。
益田もつられてさくさくと氷を口に運び、時折鋭い痛みがこめかみを突き抜けた。
たちまち硝子の器は空になり、薄まった蜜が僅かに底に溜まっている。

「―――あっしまった」
「なんだマスヤマ、お代わりか。和寅に云え。作ってくれるかは知らないけど」
「違いますよ、これから依頼人と約束があるんですけど、しまったなぁ。舌が緑になってるかな」

益田は大きく口を開け、榎木津は身を乗り出した。

「もっと舌を出せ。良く見えない」
「ふぁい」

抵抗も無く、益田はべぇと舌を出した。
濃い桃色の肉が人工的な緑に染まっている。かき氷を食べました、と云わんばかりの色だ。
イチゴ味を食べた榎木津の舌には、目立つ色は付いていない。
榎木津はじっと其れを眺め、おもむろに自分も舌を伸ばし、緑色の部分に這わせた。

「ヒッ!」

反射的に益田の舌が引っ込む。

「ははは、冷たいな!」
「止めてくださいようもう、吃驚するでしょう!舌噛んで死んだらどうするんですか」
「顔が赤いぞマスカマめ。イチゴのシロップだってこんなに赤くない!真っ赤山だな」

上機嫌な榎木津の高笑いと、益田の悲痛な訴えと、蝉時雨。
其れらを背中で聞きながら、台所の寅吉が深々と溜息を吐いた。

「イチゴでもメロンでも何でも良いがよそでやって貰えないかなぁ2人共。こっちまで暑くってしょうがねぇや」 



―――
熱いのは気温だけにしてほしい榎木津と益田。



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2009/09/01 00:04 | Comments(0) | TrackBack() | 益田

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