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2024/11/23 08:24 |
4.触れた手がとても冷たくて、頬が熱くなった
頬を張る衝撃に目が覚めた。
眠りの世界からいきなり引きずり出され、益田は混乱する。視界一杯に広がる見慣れた天井が仄白くて、今は夜なのか、朝なのか、判らなくなった。肌寒い空気の中で頬だけがじんじんと熱い。
呆然としていると、目の前にぬうと何かが現れた。寝ぼけた頭でも、見間違いようのない栗色。

「榎木津さん」
「起きたか、バカオロカ」

鳶色の瞳を焦点に、次々と記憶が目覚めてくる。
ここは探偵社で、自分は此処に泊まったのだった。下宿に帰る体力も残っていない程に疲れ果てて。目を閉じたと思ったら目が覚めていた。久しぶりに深く深く眠っていたと思う。掛け布団代わりの外套がいつの間にか滑り落ちた事にすら気づいていなかった。
そこまで思い出した処で、頬が熱いのは屹度、榎木津に頬を打たれたのだと思い至った。途端に熱さが痛みに変わり、頬を押さえる。
 
「何するんですかぁ、人が気持ち良く寝てたのに」
「煩い!天罰だ!」

益田が此処で寝ているのは珍しい光景ではない筈なのに。榎木津がこんな早朝に起きている事の方が余程珍しい。
そう云えば、益田が眠った時には榎木津は不在だった。ふと見ると榎木津は外套を着たままだ。帰ってくるなり眠っている益田を見つけ、頬を張り飛ばしたのだろうか。
朝の冷気が寝起きの身体に寒すぎて、益田は落ちている外套を引き寄せた。

「何の罰ですかもう、癇に障ったなら謝りますけどぉ、何も殴るこたぁ…」
「こんな処で寝てたら吃驚するじゃないか!」
「何でですか!いつも僕ぁ此処で寝てますよ。まさか床で寝ろって云うんじゃ」
「お前の寝相が悪いから」


戻ってきた時驚いた。
ソファから右腕を落としたまま、力無く横たわっている下僕の姿。
目を閉じて其処にある見慣れた貌が、夜明けの光で妙に青白く。
だらりと垂れ下がった腕を取って、その冷たさに驚いた。
成すがままにぐったりとする益田は、静かすぎるほど静かで。


「―――死んでるのかと思った」

事務所の窓から入り込む生まれたての朝陽に照らされた榎木津の髪が、金色に透けている。伏せられた睫まで金色だ。
それに隠れる大きな瞳が煌いて、なんだか泣いているようで。
益田はそっと手を伸ばし、榎木津の頭に触れた。彼が抵抗しなかったので、ふわりと撫でてみる。

「あの、僕ぁ卑怯ですから、危なくなったら逃げますし、一応まだ若くて、大きな病気もしてないですし、ですから」

死んだりしませんから。出来るだけ。


うん、とも、否、とも云わず只俯いている彼に、さらにかける言葉も見つからなかったので、益田は榎木津を撫で続けた。
日光がそのまま形を成したような柔らかな髪に包まれる指先が、いつの間にか温かい。



お題提供:『ラルゴポット』様
 

――――
空前の榎木津→益田ブーム(榎木津←益田も並行して)。
 


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2009/03/17 00:35 | Comments(0) | TrackBack() | 益田

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