榎木津×益田の性描写を含み、榎木津が女装しており、挙句厭/な/シリーズのパロディです。
閲覧の際は以上の内容を十分にご確認の上、大丈夫かどうか判断の上お読みくださいませ。
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厭だ。
何が厭って、先ずこの寝室の空気が厭だ。他人の寝室と言うのはどうしてこう、なんとも落ち着かない気配を抱いているのだろう。部屋の主が日々蓄えに蓄えた気配が欲情という毛皮を纏った鼬に姿を変えて、足元から僕の背中を駆け上る気配を伺っているように思える。
だが実際はそんな生き物など存在せず、僕を見ているのは寝台の上に座り込んだ、僕の上司である。
椅子みたいに腰掛けているならまだ可愛いが、馬鹿でかいスペェスの中央に片膝を立てた帝王然とした様子で堂々と僕を待っている。
まるで僕が自らの足と意志で歩いていって、彼の腕の中に飛び込んでいくのが当然だと思っているかのようだ。
実際僕はそうせざるを得ないのだ。それもまた厭で、僕はそっと下唇を食んだ。
「――どうした、来ないのか?」
笑う気配がする。僕はそちらを見る事が出来ず、ええだかハアだか適当な返答をするに留まった。
顔を上げたら、またあの姿を見る事になってしまう。
橙色の間接照明で、益々艶めきを増す栗色の髪。人形のように綺麗な鳶色の瞳は覚束無く立つ僕の情けない様子をしっかりと視ているに違いない。
そして男らしい太さと逞しさを持ちつつ百合の茎のようなしなやかさまで持つ首のラインは、紺色の襟に続いて消えているのだ。一条の白線に彩られた三角襟。同じく白い前身ごろをたわんで流れる、真っ赤なスカーフ。
それだけならまだしも、圧倒的な歩幅で彼自身を何処へでも運んで行く脚。その脚はむき出しだ。正確には膝下あたりまである靴下を履いているのだが、膝から腿のあたりまでがむき出しなのである。
その理由を思い出すと、僕はまた例の文句を口にする羽目になってしまう。花びらみたいな襞が踊る、濃紺の、清楚なスカート。何と言う、何と―――
厭、だ。
■
そもそもあのスカートを履かねばならないのは、僕であった筈なのだ。
余りにも悪趣味な職務内容。しかし仕方が無い。自己弁護をさせて貰うと、女子校にちょっとばかり潜入してちょっとばかり調査をさせて頂くにはこの方法が一番手っ取り早いのだ。木を隠すなら森の中、下僕を隠すなら女生徒の中というやつだ。
僕が行こうとしていた学校は外部からの目に酷く厳しく、刑務所かと思うような高い塀が遥か彼方まで続いている。新入教師か事務員か何かとして入り込む事も当然考えたが、狭い空間に飛び込んできた若い男であるというだけで恋に恋する淑女たちの視線を一身に受けてしまうらしい。それはそれで中々に楽しいことだが、仕事の本分を考えると、やはり向いていない。職員にとっ捕まって尋問されるのも面倒だ。
そこで女生徒だ。巨大な学校だけあって、同じ制服で同じような髪型をした女子が右にも左にもうじゃうじゃいる。大小の差はあれど、基本的に型で抜いたように同じ姿をしている。幸いにも季節は春で、卒業と入学という大規模な人員交換も起こったばかりだ。ほんの2、3時間するりと紛れ込んで校内探検するくらい簡単なことだ、そう思っていた。
この完璧な計略を酒の席で勢いよく話してみせたところ、感心されるどころか、爆笑された。
特に大声で笑ったのは鳥口君で、グラスに注がれた酒が波立つほどバンバンと机を叩き、挙句酷く噎せて青木さんに背中を擦られながら言った。
「流石にそれは無いですわ、益田君」
「ええっ」
「というか何処をどう捻ればそういう発想が出てくるんですか、何、趣味?」
青木さんの冷たい瞳が僕をじとりと見ている。心外だ。
「趣味なわけないじゃないですか。僕ぁ依頼人の立場に立って、一番依頼人のためになる方法を模索しただけです。その為なら女学生にも扮しますし、足の毛だって剃りますとも」
「そんな事はどうでもいいよ。君自分が何を言ってるか判ってる?」
「至極真面目です。言っても僕ぁ男ですからどんなものなのかなって思って生徒を視察に行きましたけど、運動する女の子なんか僕よりよっぽど体格が良いのがいる」
「にしたって女学生には無理がありますよ。案山子が着たほうが動かないだけまだ説得力がある。木に刷毛を接ぐとは良く言ったもんですわ、はは」
自分で自分の言葉に笑っているところを見ると、鳥口君はやはり態となのかもしれない。
僕が憮然として日本酒をちろりと舐めていると、青木さんと視線が合った。まるで尋問でもするかのように僕に箸先を突きつけてくる。
「君がどうなろうと勝手だけれど、これだけは言っておくよ。もしその学校から女装した変質者が侵入したと通報があった場合――」
僕が直接行って、手錠をかけてやるからね。
相変わらず小芥子そっくりの風貌だが、そう言った眼は刑事の眼光そのもので、僕は途端に味のしなくなった酒を生唾と一緒にごくりと飲み込んだ。
鳥口君は機嫌よく、じゃあ護送される時の写真は是非僕に、と言って笑っているが、僕はもう笑う気にはならなかった。どうやら今回の作戦はお蔵入りせざるを得ないようだ。
しかしそうなると、折角用意した制服の上下が無駄になる。趣味の衣服じゃ無いのだし、この機を逃せば二度と着ることは無いだろう。変装用とは言え、あくまでも大量の女学生に紛れる為の衣服だから、単独で着て歩いていたらまさしく変質者なのも流石に理解していた。
なので、先ずは置きっぱなしの制服を回収しようと思ったのだ。明日の朝に書類と一緒に持って出るつもりだったので、衣文掛けに掛けてぶら下げている筈だ。布を被せて吊るしてあるから何かと思って捲って見なければセーラー服とは判らない。しかしずっと置いてあれば、和寅さんあたりがハテこれは何だろうと見てしまわないとも限らない。
そんな訳で、頭上でぶんぶんと手を振っている鳥口君と青木さんの意味ありげな眼差しに見送られて、僕は薔薇十字探偵社に戻ってきた。鍵は預かっている。皆眠っているようで、暗い事務所はしんと静かだった。誰かに見咎められないよう、そおっとそおっと歩を進める。ところが目的の場所に来たところで、僕は首を傾げた。
ぶら下げていた制服が無くなっている。衝立にもソファにも無い。既に回収されてしまったのだろうか。だとすれば、面倒な事になってしまった。和寅さんの妙なものを見るような視線を思い出し、僕は頭を掻きながら辺りを見回す。そして、はたと気がついた。
榎木津さんの寝室の扉が薄く開いている。床の上に僅かに伸びた光の帯。まだ起きているのだろうか。
僕はそろそろと近寄って、隙間からそっと中の様子を伺ってみた。
先ず眼についたのは橙色の照明だ。高級なランプから零れる柔らかい光は瀟洒な調度品の輪郭を浮き立たせ、同時に影を落としている。しかし部屋の隅までは照らせないようで、部屋の角に闇が蟠っている。
一瞬光が遮られ、僕は瞬きをした。光源の前を何かが横切ったのだろう。僕は視線を滑らせ、そして息を呑む。掌で口を押さえ、喉から空気が漏れるのを、必死で堪えた。
――女学生の、お化け。
そんなものがいると思ったのだ。
水平服ならまだ判るが、影の腰から下はスカートの裾がひらひらと揺れているように見える。そして女学生にしてはあまりにも背が高い。僕は直ぐにあれが榎木津さんで、着ているのが例の制服だということに気付いてしまった。
どうして、どうしてこんなことに。お化けの方がまだましだ。お化けなら、悲鳴を上げて逃げることが出来る。相手が榎木津さんでは―――
僕が硬直しているうちに、スカートを翻して振り向いた榎木津さんと目が合った。彼の視力はそんなに良くない筈なのにしっかりと僕の姿を認めたのか、にいと哂う。弱い明かりの中でもその端正な作りの貌は妙な迫力を持って其処にあった。
そうして榎木津さんは寝台にひらりと飛び乗って、まるで猫の子でも呼ぶように、指先だけで僕を招いたのだ。
寝台に張られたシーツも、榎木津さんの白い肌も、血の気が抜けてしまったような僕の指先も、全てが仄かな橙色に染まっている。
そんな中で、スカーフだけが、なんだか妙に紅かった。
■
抗えないままにふらふらと歩み寄ると、女学生のお化け――榎木津さんは僕を抱き寄せ、それからその愛しげな仕種と裏腹の力で僕を寝台に投げ落とした。上等のクッションに仕込まれたバネが大きく軋み、はっと目を上げると僕の上に真っ赤なスカーフがぶら下がっている。
反駁しようとしたが、全て無駄な事だった。実際口に出していないからもしかしたら本当は無駄ではなかったのかも――否、やはり無駄に終わっただろう。
いきなりこんな事、厭です。
そんな格好してる人に色々とされてしまうのは厭です。
僕ぁ飲み屋から直接来て風呂も入ってないんです、厭です。
ひとつを口にする前に次々と厭な事が襲ってきて、抵抗する暇も無い。
そりゃあ僕だって健全な男子だ。女児趣味があるまでとは云わないが、清楚可憐な女学生と夜の課外授業などという不健全な妄想を一度もしたことがない、とは云えない。だがそれとこれとは別だろう!
現実の僕はあっという間に裸に剥かれて、似非女学生の下に組み伏せられている。榎木津さんが身動きする度に、先走って無毛にしたばかりの脛をスカートの裾が撫でる。それも厭だった。今僕の脇腹に牙を立てているのは榎木津さんだっていうのに、どうしてスカートが出てくるんだ。
首から上に乗っかっている綺麗な顔と――後孔で食い締めている指の太さは榎木津さんなのに、僕が握り締めているのは紛れも無く女学生だ。おろしたての制服からは樟脳の匂いがしている。感覚と視界が追いつかず、僕は泣きながら喘いだ。どうにもならず、切れ切れに吐き出される僕の声。
ずるりと指が引き抜かれ、僕はついぼんやりと視線をそちらに向けてしまった。肩が竦み全身が逃げを打ったのはその時だ。
濃紺のスカートから覗く精器が、僕を狙っている――
全く相反する二つの現象が同居している異常さに、僕は惑乱した。
「やっ、厭だァ――!」
僕の絶叫など意に介さず、榎木津さんは棒きれみたいな脚を担ぎ上げ、突き刺すように挿入ってきた。二、三度に分けてぐいぐいと押し込まれ、迫る圧迫に僕は訳も解らず、ただ子供のように厭だ厭だと繰り返した。
結ばれたままのスカーフが腹の上で踊っているのが厭だ。
スカートが接合部に覆いかぶさって、妙に篭った水音を立てているのが厭だ。
揺さぶられる度に擦られる僕のものが、濃紺の裏地を汚していると考えるのが厭だ。
こんな状況なのに、普段以上に燃え上がっている自分の身体が厭だ――
むせび泣くように情を放った僕を、鳶色の瞳が見下ろしている。腹の中が熱い。
白い首は三角襟の紺色とのコントラストで益々白いが、頬は紅潮して、遠目に見れば恋する乙女のようだった。
似非乙女は桜色の唇を開き、欲で掠れた低い声で僕の耳を擽った。
「――こういうのが、好きなんだろ?」
好きなものか。
状況設定嗜好とはこういう事じゃない。同じ女学生なら、僕が先生だとか先輩だとかで役割を演じるのを楽しむものだ。
僕は僕のまま、榎木津さんは榎木津さんのままじゃないか。セーラー服などと云う異物が介入して、異常な状況を作り出しただけだ。
それでも。
それでも僕が身も世もなく悶えてしまったのは。
僕は三角襟に飾られた首元に腕を回した。
主語を隠し、本音を隠して、こういう時でもなければ「好きです」と云えない自分が、何よりも――
厭だ。
―――
オフ友のリクエスト「女装攻」でした。ありがとうございました。女装攻の歪んだ萌えが少しでもお伝えできたら幸い。
先生すみません。本当にすみません。訴えないでください。
そしてこれにて今回のリクエスト達成です。お付き合い頂いた皆様に感謝!ありがとうございました!
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