Web拍手お返事です。ありがとうございます。
>きんぎょばち様
はじめましてこんにちは。コメントありがとうございます。
仰せの通り、当ブログは掌編が殆どとなっておりますが萌えは詰めさせて頂いてます。
マッスーって呼び方、かわいいですね。
ぽつりぽつりではありますが色々やっていきますので、また遊びに来て頂けたら幸いです。
ありがとうございました。
>末っ子様
拍手ありがとうございます。先日は欲望直球の拍手を送ってしまい、すみませんでした…。
半月ほど前から京極ジャンルにお越しになったということで、これから夏コミやオンリーなどお楽しみ一杯ですね。
沢山の素晴らしいサイト様がある中、うちに目を止めて頂いてありがとうございます。
結婚シリーズへのコメントも頂けて、書いてよかったなと思いました。榎益は結婚すればいいですね。
女体化そう云えば書きましたね!趣味のブログの中で更に炸裂しているやつを!そんなことなので、感想頂けて嬉しいです。また書いたらすみません。
『お医者様でも~』へのご感想もありがとうございます。
関口夫婦と榎木津の全力甘やかしと、少々ながらも薬ネタが書けて楽しかったです。
こんな所でアレですが、末っ子様はサイトをお持ちか、これからお作りになるのでしょうか?
その暁には是非リンクさせて頂きたいなぁと思っております。待ってます。ありがとうございました。
>菊川様
『お医者様でも~』お読み頂いてありがとうございます。恥ずかしいタイプの榎木津と益田でした。
リクエスト作品は違った発想のものが書けて、本当にありがたい限りです。
最近「一応抵抗する益田」がブームなので、気付いて頂けた事も嬉しかったです。
書く私もうすら笑っていたので安心してください(安心できない)
ありがとうございました。榎木津と益田は結婚すればいいですよね。本日2回目。
叩いてくださった方も、ありがとうございました。
返信不要の方もありがとうございます。ひっそりと更新を楽しみにしております!
こんにちは。大極宮の極パートが最近とみに益田的に見えてならないハム星です。
益田「え?そんなオマケが。いや、僕も読んだことないですよ。」
…ほらね!(なにが)
与太話はさておき、間もなく夏コミで、お買い物が楽しみですね。ハム星はスペースを持っておりませんが、同日に発行されるガ/ン/ダ/ム/0/0/8/3のアンソロジーに3ページ小説を寄稿させて頂いております。
当ブログは検索除けを仕込めていないのでおおっぴらに告知ページなどをお知らせすることが出来ないのですが、主催者様をはじめとした参加者様の愛と大義によって素晴らしいアンソロジーになっているはずです!0/0/8/3に興味がある方は是非探してみてください。私も早く読みたいです。
>きんぎょばち様
はじめましてこんにちは。コメントありがとうございます。
仰せの通り、当ブログは掌編が殆どとなっておりますが萌えは詰めさせて頂いてます。
マッスーって呼び方、かわいいですね。
ぽつりぽつりではありますが色々やっていきますので、また遊びに来て頂けたら幸いです。
ありがとうございました。
>末っ子様
拍手ありがとうございます。先日は欲望直球の拍手を送ってしまい、すみませんでした…。
半月ほど前から京極ジャンルにお越しになったということで、これから夏コミやオンリーなどお楽しみ一杯ですね。
沢山の素晴らしいサイト様がある中、うちに目を止めて頂いてありがとうございます。
結婚シリーズへのコメントも頂けて、書いてよかったなと思いました。榎益は結婚すればいいですね。
女体化そう云えば書きましたね!趣味のブログの中で更に炸裂しているやつを!そんなことなので、感想頂けて嬉しいです。また書いたらすみません。
『お医者様でも~』へのご感想もありがとうございます。
関口夫婦と榎木津の全力甘やかしと、少々ながらも薬ネタが書けて楽しかったです。
こんな所でアレですが、末っ子様はサイトをお持ちか、これからお作りになるのでしょうか?
その暁には是非リンクさせて頂きたいなぁと思っております。待ってます。ありがとうございました。
>菊川様
『お医者様でも~』お読み頂いてありがとうございます。恥ずかしいタイプの榎木津と益田でした。
リクエスト作品は違った発想のものが書けて、本当にありがたい限りです。
最近「一応抵抗する益田」がブームなので、気付いて頂けた事も嬉しかったです。
書く私もうすら笑っていたので安心してください(安心できない)
ありがとうございました。榎木津と益田は結婚すればいいですよね。本日2回目。
叩いてくださった方も、ありがとうございました。
返信不要の方もありがとうございます。ひっそりと更新を楽しみにしております!
こんにちは。大極宮の極パートが最近とみに益田的に見えてならないハム星です。
益田「え?そんなオマケが。いや、僕も読んだことないですよ。」
…ほらね!(なにが)
与太話はさておき、間もなく夏コミで、お買い物が楽しみですね。ハム星はスペースを持っておりませんが、同日に発行されるガ/ン/ダ/ム/0/0/8/3のアンソロジーに3ページ小説を寄稿させて頂いております。
当ブログは検索除けを仕込めていないのでおおっぴらに告知ページなどをお知らせすることが出来ないのですが、主催者様をはじめとした参加者様の愛と大義によって素晴らしいアンソロジーになっているはずです!0/0/8/3に興味がある方は是非探してみてください。私も早く読みたいです。
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雑踏や並木の葉ずれの音と云った生活音を遥か下に置き去りにして、薔薇十字探偵社は平素より幾らか静かな状態で其処にあった。寅吉の握る包丁が俎板の上で菜物を切るざくざくという音も今は無い。何より、榎木津と云う男の不在がそうさせていた。現在の事務所内では、鬱陶しい前髪を耳に引っ掛けた益田が書類に走らせるペンの音と、やや息苦しげな空咳が繰り返すのみだ。季節の変わり目に、迂闊に人ごみの中に入っていくものではないと益田は思う。何処かで風邪を貰ってきてしまった。
仕事をするには悪くない環境である筈だが、何だかんだで騒々しい日常に慣れてしまった益田は、静けさを慰めでもするかのように時折独り言を洩らす。幾度目かの独り言として「ああ喉痛い」と呟いた時、高らかに電話のベルが鳴り響いた。
万年筆を片手に握ったままでハイ薔薇十字探偵社ですがと名乗ると、受話器の向こうから妙に擦れた声が聞こえた。
「もしもし、君は、益田君かい?」
関口だ、と名乗って貰わなければそうと解らない程だった。
「如何にも僕は益田ですけど、どうしちゃったんですか関口さん」
「僕は風邪だよ、それより益田君」
酷く傷んだ声は痛ましく、聞き取りづらい。キゲンはどうだ、と聞かれた気がする。
「機嫌ですか?機嫌はまァ悪くは無いですけど」
「機嫌じゃない、加減だ。具合はどうだって聞いてるんだよ」
「ああすみません良く聞こえなくて。僕もちょっと風邪気味ですけど、関口さん程には悪くないですよ」
途端受話器の向こうから、凄まじい勢いで咳き込む声が聞こえ、益田は眉を顰めた。大丈夫ですかと聞く前に、ぜぇぜぇと息を乱す関口が「早く逃げろ」と云った。背中を丸めた小説家が、丸眼鏡の奥で必死な顔をしているのが何故か益田の頭に浮かぶ。
「―――榎さんが家に来たんだ、そして帰っていった」
「あらら、そりゃあどうも」
「彼は、僕が、妻に看病されているのを、見て―――」
「えっ、それで何で僕が逃げないといけないんですか」
関口の弱った声に被せるように、益田の背後でガラガラと盛大に鐘が鳴った。振り向けば其処には、矢張り栗色の髪を振り乱した榎木津が立っている。出掛けていった時は手ぶらだった筈だが、両手一杯に買い物袋を携えている。受話器を握ったままでぽかんと見上げる益田を見下ろす鳶色の瞳には、使命感めいたものが漲っているように見えた。
「お前、機嫌はどうだ」
「ハァ? いや機嫌は悪くないですけど、」
途端喉に異物感めいたものが競りあがってきて、思わず益田は咳き込む。受話器の向こうで待っている関口に謝罪する前に、飛んできた榎木津が益田の襟首を掴み上げた。
「うひゃあ、な、何ですよ!」
「病人か、お前病人だな!」
「そんな病人って云うほど大層なアレじゃあ」
「もしもし益田君、益田君」
痛々しい声で自分を呼ぶ関口と、大きな目を爛々と輝かせる榎木津に挟まれて、益田は混乱する。結局は直接相対している榎木津に浚われるような格好で、訳も解らないまま寝室に投げ込まれた。
所在無くぶら下がっている黒電話の受話器が、床に向けてぼそぼそと喋っている。
妻が僕を甲斐甲斐しく看病してくれているのを見て、何を思ったのか榎さんは
「僕もやってみたい」と云い出したんだ。
だが僕のことは全てあれがやってしまっていたから、自分で新しい病人を探すと云って飛び出していった。
自分の腕を揮う先を探しているんだ。
益田君が風邪をひいているなら、気をつけた方が良い。
あの男はこれから力の限り、君を甘やかすぞ――――
■
益田が自分の置かれている状況を把握した時、彼の状態はすっかり変わってしまっていた。
大人しく机に向かっていたはずが、無闇に広い寝台に寝かしつけられている。シャツもタイも剥ぎ取られ、真新しい寝巻きに着せ替えられた。誰にでも着せられるようにと思ったのか矢鱈サイズが大きいが、一面に輪切りの蜜柑が散りばめられた柄が異常に子どもっぽいのが気味悪い。そんな自分の姿を見たくなくて益田はそっと布団を被りなおした。熱など無いのに乗せられた濡れタオルから、染み出た冷水がだらりと伝った。
「…あのう、榎木津さん?」
ベッドに腰掛けている榎木津は、声も出さずにゆっくりと振り向いた。手元には半分開いた桃の缶詰と、缶切りが握られていたが、一旦其れを横に置くと体温計を取り出して強く振った。目盛を戻しているのだ。
「僕ぁこんなにされるほど重篤な病人じゃあ無いんですけれども」
「病人の癖に健康を語るんじゃないぞカゼヤマ!医者でも無い癖に、これから絶対に凄い熱が出ないって云えるのか。もう少しほっといて凄い熱が出てからの方が治し甲斐がありそうだけど、これ以上バカになったら手がつけられないから今のうちに看病するん、だッ」
「うぐっ」
口内に体温計の先端を突っ込まれ、益田は渋々其れを咥えた。舌の裏と唇で金属の感触が冷たい。ちらりと盗み見ると、榎木津は缶詰を開ける作業に戻っていた。きしきしと軋む音につれて、甘い蜜の香りが漏れてくる。高価な桃の缶詰、子どもの頃は中々口に入らなかったなぁなどと考えていると、益田の目の前で硝子の器に透明なシロップごと大きな桃がごろりと滑り出てきた。滑らかに整った表面がつやつやと輝く。
吐き出した体温計の目盛は当然平熱を示しており、榎木津はあからさまにつまらなそうな顔をしながらも、食器に盛られた桃を差し出してきた。
「食べなさい」
「はぁ、いただきま…」
「起きるな病気!」
「ぎゃあ!」
上体を僅かに起こした瞬間、榎木津の掌が益田の胸を押した。勢い良く寝台に戻され、塵が舞い上がる。埃に当てられて、また咳が漏れてしまった。
ぶ厚い果肉にざくりと銀の匙が突き立てられて、酷く嫌な予感がする。
「そら、口を開けろ」
…やっぱり。
「や、止めてくださいよぅ。僕ァ本当に元気なんですから、謙遜とかじゃなく本当に!」
「元気だと云うなら僕の云う事が聞けないのはおかしいぞ。サルでも出来る事が出来ないのかバカオロカ。あのおサルはお前と違って熱もあったけど、雪ちゃんがお口を開けてと云ったらちゃあんと開けていたぞ。実に良く躾が行き届いているじゃあないか!」
そうだったのか、関口さん…。
あの鬱々とした男が大人しく妻の看護を享受する様子は想像するだに奇妙で、意外な驚きに思わず唇を開いてしまう。
其処に小さく切り取られた桃とシロップとが、するりと流れ込んできた。
「う」
「あまぁいだろう」
「は、はい、甘いです。わ、わー、なんだかすっかり風邪が治った気がするなー」
引き攣った笑いを浮かべ、身を起こそうとしたが、先程と同じように押し戻される。まだ満足していないらしい。
ベッドサイドには榎木津が買い揃えた様々な看病道具が並んでいたが、中でも益田が気になったのは薬包紙に包まれた何かだ。榎木津が慣れた手つきで水差しからグラスに水を移しているのが、今後の展開を嫌でも予想させる。
「食べたら薬だ!そら飲め!」
…ほらね。
益田はろくでもない予感ばかりが良く当たる己の勘を呪った。
「ですから榎木津さん、僕ぁですね」
「飲まなきゃ治らない!まさか苦い薬は嫌だと云うんじゃないだろうな。関係ないよ、僕が飲むんじゃないんだから」
味の問題では無い。確かに何でもない時に苦い思いをするのも嫌だが、素人診断で適当に薬を呑んで良いものだろうか。
薬包紙の中から現れた真っ白い散薬はいかにも効きそうではあるが、不気味だ。
「いいから飲め!」
「嫌です!」
「面倒臭いやつだな、水に溶いてやったんだから、さぁ飲め!」
「嫌ですよぅ!本当に病院送りになっちゃったらどうするんですか!」
グラスを唇に押し付けられた益田と榎木津との押し問答は続いた。激しい抵抗に、額の濡れタオルが滑り落ちるほどに。
ついに痺れをきらした榎木津が身を起こしたかと思うと、思い切りグラスを呷るのを益田は見た。良くない未来予想図が、瞬時に頭の中で明滅する。
そして其れは現実となった。
「う…っ」
触れた唇が、流れ込んでくる水が冷たい。
直前に甘いものを摂った所為か口腔に広がった苦味は益田の想像より更に酷いものだった。舌を刺し、喉を焼くようだ。傷んだ粘膜を慰撫するように、榎木津の舌が這った。
唇が離れ、飲み込み損ねた雫が頬を伝って枕に染みる。呆然と見上げた先で、鳶色の瞳が瞬いた。
「あー苦かった」
お前が面倒をかけるからだ、と舌を出した榎木津が云う。
「な、な」
「ん?顔が赤くなってきたぞお前。ついに熱が出てきたか、それとも今のぐらいで照れているのか?」
「今のぐらいってなんですか!僕は、僕はですね!」
「きゃんきゃん吼えるなバカオロカ。薬を飲んだら次は寝るんだ。起きたらお粥を作ってやろう」
新しく絞ったタオルを額に乗せられ、布団を掛けなおされる。その上からぽんぽん、と叩かれて、赤子を寝かしつけるようだ。
僅かに濡れた唇から、耳に慣れた旋律が聞こえる。幼い頃熱を出した益田に、母親が歌ってくれた。
「関口さん家でも、そうやってたんですか…?」
「さーて、どうだかなぁ」
「どうなんでしょうね…」
会話にならない会話をして、益田は瞼を閉じる。
本当に子守唄で寝かしつけられる訳では無いが、ふわふわの布団と絶えず与えられるリズムが心地よい。午睡の機会を与えられたと思えば、これはこれで悪くない。
時折あやふやになる歌詞に耳を傾けながら、意識がゆっくりと解けていくのを感じていた。
…おかしい。
益田は目を開けた。どうもおかしい。
なんだか熱っぽい気がする。風邪が悪化したというなら、それは仕方が無いことだ。
だが病の熱は頭が熱かったりするものだが、この熱は胎の底から来ているような気がする。指先がむずむずして落ち着かない。
「…あのう、榎木津さん」
「なんだまだ起きていたのか、早く寝てしまえ」
「ところでさっきの薬は、何に効く薬なんでしょうか」
ああ、と榎木津は顔を上げた。
「熱冷ましも鼻水止めもあるけど、まだマスヤマは熱も鼻水も出てないから止めたんだ」
「そうですか、そりゃあ良かった」
「だから何にでも効きそうな、精がつく薬にしたんだ」
「えっ」
「男の元気が無い時に飲めばたちまち元気になるらしいぞ、良かったな」
「えっ」
それは…どう考えても用途が違うのでは無いだろうか。
第一その宣伝文句は病院と云うより、怪しげな薬局の店頭の張り紙で見かける気がするのだが。精力絶倫、とか云う―――
意識した途端、益田の全身をざわざわと良からぬ震えが駆け抜けた。
「ひえぇ…!」
「なんだマスヤマ、寝ろ!寝ないと効かないぞ!」
「じゃあ寝ません…!ていうか、こんな状態で、寝てられませんよぅ…!」
榎木津の行動は、益田ごときの拙き「予感」など、結局飛び越えてしまうものなのだ。
結果として益田の病状は悪化する事になるのだが、その理由であるとか原因であるとかは、室温に温くなった水差しのみが知っている。
―――
無記名でのリクエスト「益田のご機嫌をとる榎木津」でした。ありがとうございました。
これはただの看病プレイと云うのでは… 正直楽しかったです。
仕事をするには悪くない環境である筈だが、何だかんだで騒々しい日常に慣れてしまった益田は、静けさを慰めでもするかのように時折独り言を洩らす。幾度目かの独り言として「ああ喉痛い」と呟いた時、高らかに電話のベルが鳴り響いた。
万年筆を片手に握ったままでハイ薔薇十字探偵社ですがと名乗ると、受話器の向こうから妙に擦れた声が聞こえた。
「もしもし、君は、益田君かい?」
関口だ、と名乗って貰わなければそうと解らない程だった。
「如何にも僕は益田ですけど、どうしちゃったんですか関口さん」
「僕は風邪だよ、それより益田君」
酷く傷んだ声は痛ましく、聞き取りづらい。キゲンはどうだ、と聞かれた気がする。
「機嫌ですか?機嫌はまァ悪くは無いですけど」
「機嫌じゃない、加減だ。具合はどうだって聞いてるんだよ」
「ああすみません良く聞こえなくて。僕もちょっと風邪気味ですけど、関口さん程には悪くないですよ」
途端受話器の向こうから、凄まじい勢いで咳き込む声が聞こえ、益田は眉を顰めた。大丈夫ですかと聞く前に、ぜぇぜぇと息を乱す関口が「早く逃げろ」と云った。背中を丸めた小説家が、丸眼鏡の奥で必死な顔をしているのが何故か益田の頭に浮かぶ。
「―――榎さんが家に来たんだ、そして帰っていった」
「あらら、そりゃあどうも」
「彼は、僕が、妻に看病されているのを、見て―――」
「えっ、それで何で僕が逃げないといけないんですか」
関口の弱った声に被せるように、益田の背後でガラガラと盛大に鐘が鳴った。振り向けば其処には、矢張り栗色の髪を振り乱した榎木津が立っている。出掛けていった時は手ぶらだった筈だが、両手一杯に買い物袋を携えている。受話器を握ったままでぽかんと見上げる益田を見下ろす鳶色の瞳には、使命感めいたものが漲っているように見えた。
「お前、機嫌はどうだ」
「ハァ? いや機嫌は悪くないですけど、」
途端喉に異物感めいたものが競りあがってきて、思わず益田は咳き込む。受話器の向こうで待っている関口に謝罪する前に、飛んできた榎木津が益田の襟首を掴み上げた。
「うひゃあ、な、何ですよ!」
「病人か、お前病人だな!」
「そんな病人って云うほど大層なアレじゃあ」
「もしもし益田君、益田君」
痛々しい声で自分を呼ぶ関口と、大きな目を爛々と輝かせる榎木津に挟まれて、益田は混乱する。結局は直接相対している榎木津に浚われるような格好で、訳も解らないまま寝室に投げ込まれた。
所在無くぶら下がっている黒電話の受話器が、床に向けてぼそぼそと喋っている。
妻が僕を甲斐甲斐しく看病してくれているのを見て、何を思ったのか榎さんは
「僕もやってみたい」と云い出したんだ。
だが僕のことは全てあれがやってしまっていたから、自分で新しい病人を探すと云って飛び出していった。
自分の腕を揮う先を探しているんだ。
益田君が風邪をひいているなら、気をつけた方が良い。
あの男はこれから力の限り、君を甘やかすぞ――――
■
益田が自分の置かれている状況を把握した時、彼の状態はすっかり変わってしまっていた。
大人しく机に向かっていたはずが、無闇に広い寝台に寝かしつけられている。シャツもタイも剥ぎ取られ、真新しい寝巻きに着せ替えられた。誰にでも着せられるようにと思ったのか矢鱈サイズが大きいが、一面に輪切りの蜜柑が散りばめられた柄が異常に子どもっぽいのが気味悪い。そんな自分の姿を見たくなくて益田はそっと布団を被りなおした。熱など無いのに乗せられた濡れタオルから、染み出た冷水がだらりと伝った。
「…あのう、榎木津さん?」
ベッドに腰掛けている榎木津は、声も出さずにゆっくりと振り向いた。手元には半分開いた桃の缶詰と、缶切りが握られていたが、一旦其れを横に置くと体温計を取り出して強く振った。目盛を戻しているのだ。
「僕ぁこんなにされるほど重篤な病人じゃあ無いんですけれども」
「病人の癖に健康を語るんじゃないぞカゼヤマ!医者でも無い癖に、これから絶対に凄い熱が出ないって云えるのか。もう少しほっといて凄い熱が出てからの方が治し甲斐がありそうだけど、これ以上バカになったら手がつけられないから今のうちに看病するん、だッ」
「うぐっ」
口内に体温計の先端を突っ込まれ、益田は渋々其れを咥えた。舌の裏と唇で金属の感触が冷たい。ちらりと盗み見ると、榎木津は缶詰を開ける作業に戻っていた。きしきしと軋む音につれて、甘い蜜の香りが漏れてくる。高価な桃の缶詰、子どもの頃は中々口に入らなかったなぁなどと考えていると、益田の目の前で硝子の器に透明なシロップごと大きな桃がごろりと滑り出てきた。滑らかに整った表面がつやつやと輝く。
吐き出した体温計の目盛は当然平熱を示しており、榎木津はあからさまにつまらなそうな顔をしながらも、食器に盛られた桃を差し出してきた。
「食べなさい」
「はぁ、いただきま…」
「起きるな病気!」
「ぎゃあ!」
上体を僅かに起こした瞬間、榎木津の掌が益田の胸を押した。勢い良く寝台に戻され、塵が舞い上がる。埃に当てられて、また咳が漏れてしまった。
ぶ厚い果肉にざくりと銀の匙が突き立てられて、酷く嫌な予感がする。
「そら、口を開けろ」
…やっぱり。
「や、止めてくださいよぅ。僕ァ本当に元気なんですから、謙遜とかじゃなく本当に!」
「元気だと云うなら僕の云う事が聞けないのはおかしいぞ。サルでも出来る事が出来ないのかバカオロカ。あのおサルはお前と違って熱もあったけど、雪ちゃんがお口を開けてと云ったらちゃあんと開けていたぞ。実に良く躾が行き届いているじゃあないか!」
そうだったのか、関口さん…。
あの鬱々とした男が大人しく妻の看護を享受する様子は想像するだに奇妙で、意外な驚きに思わず唇を開いてしまう。
其処に小さく切り取られた桃とシロップとが、するりと流れ込んできた。
「う」
「あまぁいだろう」
「は、はい、甘いです。わ、わー、なんだかすっかり風邪が治った気がするなー」
引き攣った笑いを浮かべ、身を起こそうとしたが、先程と同じように押し戻される。まだ満足していないらしい。
ベッドサイドには榎木津が買い揃えた様々な看病道具が並んでいたが、中でも益田が気になったのは薬包紙に包まれた何かだ。榎木津が慣れた手つきで水差しからグラスに水を移しているのが、今後の展開を嫌でも予想させる。
「食べたら薬だ!そら飲め!」
…ほらね。
益田はろくでもない予感ばかりが良く当たる己の勘を呪った。
「ですから榎木津さん、僕ぁですね」
「飲まなきゃ治らない!まさか苦い薬は嫌だと云うんじゃないだろうな。関係ないよ、僕が飲むんじゃないんだから」
味の問題では無い。確かに何でもない時に苦い思いをするのも嫌だが、素人診断で適当に薬を呑んで良いものだろうか。
薬包紙の中から現れた真っ白い散薬はいかにも効きそうではあるが、不気味だ。
「いいから飲め!」
「嫌です!」
「面倒臭いやつだな、水に溶いてやったんだから、さぁ飲め!」
「嫌ですよぅ!本当に病院送りになっちゃったらどうするんですか!」
グラスを唇に押し付けられた益田と榎木津との押し問答は続いた。激しい抵抗に、額の濡れタオルが滑り落ちるほどに。
ついに痺れをきらした榎木津が身を起こしたかと思うと、思い切りグラスを呷るのを益田は見た。良くない未来予想図が、瞬時に頭の中で明滅する。
そして其れは現実となった。
「う…っ」
触れた唇が、流れ込んでくる水が冷たい。
直前に甘いものを摂った所為か口腔に広がった苦味は益田の想像より更に酷いものだった。舌を刺し、喉を焼くようだ。傷んだ粘膜を慰撫するように、榎木津の舌が這った。
唇が離れ、飲み込み損ねた雫が頬を伝って枕に染みる。呆然と見上げた先で、鳶色の瞳が瞬いた。
「あー苦かった」
お前が面倒をかけるからだ、と舌を出した榎木津が云う。
「な、な」
「ん?顔が赤くなってきたぞお前。ついに熱が出てきたか、それとも今のぐらいで照れているのか?」
「今のぐらいってなんですか!僕は、僕はですね!」
「きゃんきゃん吼えるなバカオロカ。薬を飲んだら次は寝るんだ。起きたらお粥を作ってやろう」
新しく絞ったタオルを額に乗せられ、布団を掛けなおされる。その上からぽんぽん、と叩かれて、赤子を寝かしつけるようだ。
僅かに濡れた唇から、耳に慣れた旋律が聞こえる。幼い頃熱を出した益田に、母親が歌ってくれた。
「関口さん家でも、そうやってたんですか…?」
「さーて、どうだかなぁ」
「どうなんでしょうね…」
会話にならない会話をして、益田は瞼を閉じる。
本当に子守唄で寝かしつけられる訳では無いが、ふわふわの布団と絶えず与えられるリズムが心地よい。午睡の機会を与えられたと思えば、これはこれで悪くない。
時折あやふやになる歌詞に耳を傾けながら、意識がゆっくりと解けていくのを感じていた。
…おかしい。
益田は目を開けた。どうもおかしい。
なんだか熱っぽい気がする。風邪が悪化したというなら、それは仕方が無いことだ。
だが病の熱は頭が熱かったりするものだが、この熱は胎の底から来ているような気がする。指先がむずむずして落ち着かない。
「…あのう、榎木津さん」
「なんだまだ起きていたのか、早く寝てしまえ」
「ところでさっきの薬は、何に効く薬なんでしょうか」
ああ、と榎木津は顔を上げた。
「熱冷ましも鼻水止めもあるけど、まだマスヤマは熱も鼻水も出てないから止めたんだ」
「そうですか、そりゃあ良かった」
「だから何にでも効きそうな、精がつく薬にしたんだ」
「えっ」
「男の元気が無い時に飲めばたちまち元気になるらしいぞ、良かったな」
「えっ」
それは…どう考えても用途が違うのでは無いだろうか。
第一その宣伝文句は病院と云うより、怪しげな薬局の店頭の張り紙で見かける気がするのだが。精力絶倫、とか云う―――
意識した途端、益田の全身をざわざわと良からぬ震えが駆け抜けた。
「ひえぇ…!」
「なんだマスヤマ、寝ろ!寝ないと効かないぞ!」
「じゃあ寝ません…!ていうか、こんな状態で、寝てられませんよぅ…!」
榎木津の行動は、益田ごときの拙き「予感」など、結局飛び越えてしまうものなのだ。
結果として益田の病状は悪化する事になるのだが、その理由であるとか原因であるとかは、室温に温くなった水差しのみが知っている。
―――
無記名でのリクエスト「益田のご機嫌をとる榎木津」でした。ありがとうございました。
これはただの看病プレイと云うのでは… 正直楽しかったです。
Web拍手お返事です。ありがとうございます。
>蒼月様
『梅雨寒』リクエストと、お読み頂いてありがとうございます。長らくお待たせ致しました。
綺麗なタイトルを指定して頂きましたので、本当にリアル梅雨の時期に書きたかったです…!
蒼月様がお読みくださると思うと、甘い榎木津と益田が躊躇無く書けます。
原作的にうっかり全裸で同衾っていうのはアリなのかナシなのかと思いますが(無しだよ!)
色々とギリギリなお話になりましたが、前回同様蒼月様のお宅で可愛がって頂ければ幸いに思います。
毎回有難いお言葉をありがとうございます。本当に励みになりました。
叩いてくださった方も、ありがとうございました。
眩暈坂上のサークルリストが出ましたね。Ctrl+Fで「益」を検索してニコニコするという暗い愛で方をしました。
配置発表は9月ということで、9月が待ちきれないです。益田ストリートあると思います。
興奮してコミック怪も初めて買いました。苺柄の寝巻きのことは100万回触れられていると思いますがどうしてもツッコまずにはいられない。「青木の寝巻きの柄がえらいことだ」という話を聞いて、まさかコケシ柄なのだろうかと思った私の浅薄な想像の斜め上を行くセンスでした。コケシ柄のトーンなんかないよ!
告知ページの益田の眉が薄い、っていうか眉頭しか無いのが嬉しかったです。文章では表現しづらいですが、眉間の表情が豊かな益田が好きです。
魍魎3巻も買いました。ラフ榎木津の中に花京院頭のアイデアがあって露骨な動揺を見せたのは私だけで良いです。
>蒼月様
『梅雨寒』リクエストと、お読み頂いてありがとうございます。長らくお待たせ致しました。
綺麗なタイトルを指定して頂きましたので、本当にリアル梅雨の時期に書きたかったです…!
蒼月様がお読みくださると思うと、甘い榎木津と益田が躊躇無く書けます。
原作的にうっかり全裸で同衾っていうのはアリなのかナシなのかと思いますが(無しだよ!)
色々とギリギリなお話になりましたが、前回同様蒼月様のお宅で可愛がって頂ければ幸いに思います。
毎回有難いお言葉をありがとうございます。本当に励みになりました。
叩いてくださった方も、ありがとうございました。
眩暈坂上のサークルリストが出ましたね。Ctrl+Fで「益」を検索してニコニコするという暗い愛で方をしました。
配置発表は9月ということで、9月が待ちきれないです。益田ストリートあると思います。
興奮してコミック怪も初めて買いました。苺柄の寝巻きのことは100万回触れられていると思いますがどうしてもツッコまずにはいられない。「青木の寝巻きの柄がえらいことだ」という話を聞いて、まさかコケシ柄なのだろうかと思った私の浅薄な想像の斜め上を行くセンスでした。コケシ柄のトーンなんかないよ!
告知ページの益田の眉が薄い、っていうか眉頭しか無いのが嬉しかったです。文章では表現しづらいですが、眉間の表情が豊かな益田が好きです。
魍魎3巻も買いました。ラフ榎木津の中に花京院頭のアイデアがあって露骨な動揺を見せたのは私だけで良いです。
目を閉じている筈なのに、瞼の裏に見慣れた天井が見えるような気分で、益田は自らの目覚めが近いことを知覚した。薄く白を刷いた風景は朝の空気の色だ。同時にしとしとと湿った音を聞き、今朝は雨が降っていることにも気付いた。
雨の朝は厭だ。太陽は隠れていて薄暗いし、じめじめとして湿っぽい。安普請の下宿ではあちらこちらに結露が発生するし、冷えた空気が肌寒くて目を開けるのも億劫だ。まして裸の肩ともなれば尚更―――裸の肩?
益田はぱちりと目を開く。眼前に広がっているのは、古ぼけた天井と破れかけた襖―――ではなく、閉じられた白い瞼と栗色の睫であったので、仰天して飛び上がった。
「わぁ!」
途端質の良いスプリングが益田を跳ね戻し、薄手の掛け物ごと寝台の下に転げ落ちた。どさりという乱暴な音と共に益田の背が床を打つ。慌てて起き上がろうとして立てた膝にも何も纏っていなかったので、益田の動揺は最高潮に達した。
「な、何で僕服着てないんだ!? 下着も、ていうか此処何処、」
床にへたり込んだままで辺りを見渡す。豪奢な調度品の中に様々な衣服が散らばっていたが、部屋の扉から寝台に向かって点々と落ちているのが自分の衣服であるという事実が更に益田を打ちのめした。心細さを誤魔化すように、胸元まで布団を引き寄せている。榎木津が起きていたら、やはりカマであったと大いに哂われそうな格好だ。
そう云えば榎木津だ。認めたくはないが、どうも此処は榎木津の寝室であるらしい。目覚めた瞬間目の当たりにしたものは、矢張り榎木津の寝顔だったようだ。恐る恐る寝台の上を顧み、益田は頭を抱えた。羽枕に顔を埋めてすやすやと眠っている男も、益田と同じく何も着ていない。布団も引き摺り下ろしてしまったので、まさに一糸纏わぬ格好で横たわっているという有様だった。
経験の有無はこの際置いておくとしても、益田とて子どもでは無い。裸の男女が一つ寝床で朝を迎えることが何を意味するかは知っている。ただ、当事者が自分と、しかも榎木津だと云う現実が彼の頭を掻き乱した。
「えっそんな、嘘ッ! なんで」
「…むぅ」
うにゃうにゃと化け猫めいた呻き声を上げて、榎木津が身動ぎをした。寝返りを打ち、仰向けの格好になると、ふうと深く息を吐く。幾分眠りが浅くなったのか、眉間には皺を寄せている。
益田のこめかみを冷や汗が流れた。大変に不味い。何も思い出せない。自分が酒を飲んだのか、そうで無いのかすらも思いつかない。布団から飛び出した裸の爪先を見つめて、益田は只々煩悶していた。自分が何かされたならともかく、何かしでかしてしまったとしたら。頭の中ががんがんと痛んで、雨の音すらも聞こえない。
こう云った状況で、今成すべき事は何か。混乱する頭で思いついた手段は一つしか無かった。きっと男としては最低のやり口だろう。けれど、こうでもしなければ日頃から卑怯で臆病な性格を自称してきた甲斐が無いと云うものだ。自己弁護を完結させ、益田は顔を上げた。
「…逃げよう!」
自分が何も覚えていないのだ。もしかしたら、榎木津も何も覚えていないかも知れない。その場凌ぎとは云え、今はその可能性に賭けるしか無い。益田は薄掛けをかなぐり捨て、這うように衣服を拾い集めた。
そんな益田が動きを止めたのは、背後から榎木津の声がしたからだ。名を呼びつけられたなら、服など着ないで飛び出しただろう。立ち上がってその寝顔を覗き込まずに居られなかったのは、その声が「さむい」と云ったように聞こえた所為だ。
窓硝子を雨が伝い、裸足の爪先で触れる床が冷たい。
益田は薄い布団を拾い上げ、シーツの上に伸びた四肢を隠すようにそっと被せた。ふわりと空気を飲み込んだ上掛けは、ゆっくりと榎木津の身体に落ちる。それでもまだしっかりとした肩が覗いているので、掛け直してやろうと手をかける。
益田にとっては、其れがいけなかった。
途端寝台から手が伸びてきて、益田の手首をがっと掴んだかと思うと、たちまち寝床の中へと引き込んでしまったのだから。
「うわぁ!」
更には力強く抱きすくめられて、一旦落ち着いたはずの心臓が再びばくばくと脈を打つ。おまけに脚まで絡められ、声にならぬ悲鳴が遡った。
「え、榎木津さぁん! 誰と間違えてるんですか、離し」
「うるさい、寒いんだ…」
榎木津はそう呟いて、益田の喉元に頭をひとつ擦り付けると、また寝息を立て始めた。すぅすぅと規則正しい呼吸音が、雨音に混じって益田の耳に届く。肌が触れる箇所から、榎木津の体温がじわじわと益田の中にまで沁みて来た。
榎木津は寒いと云っていた。自分の冷めた体温では、余計に冷たさを感じるだけだろうと思うけれど。
「寝てるからかなぁ…榎木津さん、あったかい…」
冷えた爪先にゆっくりと体温が戻ってくるのを感じ、益田は溜息を落とした。
この薄暗い灰色の空気と、ひやりとした外気と人肌の温もりの落差が、大変に良くない。朝など来なければ良いと、目覚めたくなどないと思ってしまう。状況は依然として切羽詰っていて、何故こんな事になっているのか益田は解らないままなのに。
どうせいつかは目を覚まさなければならないのなら。益田は胸の奥から込み上げてくる感情に従って、目を閉じた。
せめてひと時でも、この雨が止むまでは。
―――
蒼月様リクエスト「肌寒い時に暖めあってみる榎木津と益田」でした。ありがとうございました。
梅雨明けてしまった…お待たせして申し訳ありませんでした。
雨の朝は厭だ。太陽は隠れていて薄暗いし、じめじめとして湿っぽい。安普請の下宿ではあちらこちらに結露が発生するし、冷えた空気が肌寒くて目を開けるのも億劫だ。まして裸の肩ともなれば尚更―――裸の肩?
益田はぱちりと目を開く。眼前に広がっているのは、古ぼけた天井と破れかけた襖―――ではなく、閉じられた白い瞼と栗色の睫であったので、仰天して飛び上がった。
「わぁ!」
途端質の良いスプリングが益田を跳ね戻し、薄手の掛け物ごと寝台の下に転げ落ちた。どさりという乱暴な音と共に益田の背が床を打つ。慌てて起き上がろうとして立てた膝にも何も纏っていなかったので、益田の動揺は最高潮に達した。
「な、何で僕服着てないんだ!? 下着も、ていうか此処何処、」
床にへたり込んだままで辺りを見渡す。豪奢な調度品の中に様々な衣服が散らばっていたが、部屋の扉から寝台に向かって点々と落ちているのが自分の衣服であるという事実が更に益田を打ちのめした。心細さを誤魔化すように、胸元まで布団を引き寄せている。榎木津が起きていたら、やはりカマであったと大いに哂われそうな格好だ。
そう云えば榎木津だ。認めたくはないが、どうも此処は榎木津の寝室であるらしい。目覚めた瞬間目の当たりにしたものは、矢張り榎木津の寝顔だったようだ。恐る恐る寝台の上を顧み、益田は頭を抱えた。羽枕に顔を埋めてすやすやと眠っている男も、益田と同じく何も着ていない。布団も引き摺り下ろしてしまったので、まさに一糸纏わぬ格好で横たわっているという有様だった。
経験の有無はこの際置いておくとしても、益田とて子どもでは無い。裸の男女が一つ寝床で朝を迎えることが何を意味するかは知っている。ただ、当事者が自分と、しかも榎木津だと云う現実が彼の頭を掻き乱した。
「えっそんな、嘘ッ! なんで」
「…むぅ」
うにゃうにゃと化け猫めいた呻き声を上げて、榎木津が身動ぎをした。寝返りを打ち、仰向けの格好になると、ふうと深く息を吐く。幾分眠りが浅くなったのか、眉間には皺を寄せている。
益田のこめかみを冷や汗が流れた。大変に不味い。何も思い出せない。自分が酒を飲んだのか、そうで無いのかすらも思いつかない。布団から飛び出した裸の爪先を見つめて、益田は只々煩悶していた。自分が何かされたならともかく、何かしでかしてしまったとしたら。頭の中ががんがんと痛んで、雨の音すらも聞こえない。
こう云った状況で、今成すべき事は何か。混乱する頭で思いついた手段は一つしか無かった。きっと男としては最低のやり口だろう。けれど、こうでもしなければ日頃から卑怯で臆病な性格を自称してきた甲斐が無いと云うものだ。自己弁護を完結させ、益田は顔を上げた。
「…逃げよう!」
自分が何も覚えていないのだ。もしかしたら、榎木津も何も覚えていないかも知れない。その場凌ぎとは云え、今はその可能性に賭けるしか無い。益田は薄掛けをかなぐり捨て、這うように衣服を拾い集めた。
そんな益田が動きを止めたのは、背後から榎木津の声がしたからだ。名を呼びつけられたなら、服など着ないで飛び出しただろう。立ち上がってその寝顔を覗き込まずに居られなかったのは、その声が「さむい」と云ったように聞こえた所為だ。
窓硝子を雨が伝い、裸足の爪先で触れる床が冷たい。
益田は薄い布団を拾い上げ、シーツの上に伸びた四肢を隠すようにそっと被せた。ふわりと空気を飲み込んだ上掛けは、ゆっくりと榎木津の身体に落ちる。それでもまだしっかりとした肩が覗いているので、掛け直してやろうと手をかける。
益田にとっては、其れがいけなかった。
途端寝台から手が伸びてきて、益田の手首をがっと掴んだかと思うと、たちまち寝床の中へと引き込んでしまったのだから。
「うわぁ!」
更には力強く抱きすくめられて、一旦落ち着いたはずの心臓が再びばくばくと脈を打つ。おまけに脚まで絡められ、声にならぬ悲鳴が遡った。
「え、榎木津さぁん! 誰と間違えてるんですか、離し」
「うるさい、寒いんだ…」
榎木津はそう呟いて、益田の喉元に頭をひとつ擦り付けると、また寝息を立て始めた。すぅすぅと規則正しい呼吸音が、雨音に混じって益田の耳に届く。肌が触れる箇所から、榎木津の体温がじわじわと益田の中にまで沁みて来た。
榎木津は寒いと云っていた。自分の冷めた体温では、余計に冷たさを感じるだけだろうと思うけれど。
「寝てるからかなぁ…榎木津さん、あったかい…」
冷えた爪先にゆっくりと体温が戻ってくるのを感じ、益田は溜息を落とした。
この薄暗い灰色の空気と、ひやりとした外気と人肌の温もりの落差が、大変に良くない。朝など来なければ良いと、目覚めたくなどないと思ってしまう。状況は依然として切羽詰っていて、何故こんな事になっているのか益田は解らないままなのに。
どうせいつかは目を覚まさなければならないのなら。益田は胸の奥から込み上げてくる感情に従って、目を閉じた。
せめてひと時でも、この雨が止むまでは。
―――
蒼月様リクエスト「肌寒い時に暖めあってみる榎木津と益田」でした。ありがとうございました。
梅雨明けてしまった…お待たせして申し訳ありませんでした。
Web拍手お返事です。有難うございます。
>林檎様
こんにちは、お久しぶりです。ご心配をおかけして申し訳ございませんでした。
原稿もそうですが、少し風邪をひいてました。もう治りましたが、林檎様もお体にはお気をつけて。
本楽しみと云って頂けて嬉しいです。充実した一日になるよう、今から色々やっていきたい所存です。
林檎様はシリアスもギャグも書けて凄いなぁといつも思います。私も微力ながら、頑張りますね。
有難うございました。
>菊川様
オフライン報告のみならずサンプルまで読んでくださって、有難うございます。
益田のタイは浪漫に満ちてますよね。ただの布なのに…不思議ですね。
また、企画に本当にご参加頂けるということで、光栄です!良いんですか本当に!
詳細についてはまた追ってお話させて頂ければと存じます。まずはお返事まで。
有難うございました。
叩いてくださった方も、有難うございました。
返信不要の方もありがとうございます。発行物は増減の可能性がありますので、また追って更新致しますね。
雑記が続いてしまい申し訳ないのですが、これだけは早いうちに言っておかないとと思いました。
百器コミカライズ決定ありがとうございます!
しかも志水先生ダブル連載ということで、楽しみだったり先生のお体が心配だったりやっぱりとっても楽しみだったりと今から忙しいです。10月24日発売の「怪」からスタートということなので、オンリーの後もまだまだお楽しみは続きますね。ようこそ益田の時代。多くは望みませんが、コミック版益田よ八重歯であれ。
>林檎様
こんにちは、お久しぶりです。ご心配をおかけして申し訳ございませんでした。
原稿もそうですが、少し風邪をひいてました。もう治りましたが、林檎様もお体にはお気をつけて。
本楽しみと云って頂けて嬉しいです。充実した一日になるよう、今から色々やっていきたい所存です。
林檎様はシリアスもギャグも書けて凄いなぁといつも思います。私も微力ながら、頑張りますね。
有難うございました。
>菊川様
オフライン報告のみならずサンプルまで読んでくださって、有難うございます。
益田のタイは浪漫に満ちてますよね。ただの布なのに…不思議ですね。
また、企画に本当にご参加頂けるということで、光栄です!良いんですか本当に!
詳細についてはまた追ってお話させて頂ければと存じます。まずはお返事まで。
有難うございました。
叩いてくださった方も、有難うございました。
返信不要の方もありがとうございます。発行物は増減の可能性がありますので、また追って更新致しますね。
雑記が続いてしまい申し訳ないのですが、これだけは早いうちに言っておかないとと思いました。
百器コミカライズ決定ありがとうございます!
しかも志水先生ダブル連載ということで、楽しみだったり先生のお体が心配だったりやっぱりとっても楽しみだったりと今から忙しいです。10月24日発売の「怪」からスタートということなので、オンリーの後もまだまだお楽しみは続きますね。ようこそ益田の時代。多くは望みませんが、コミック版益田よ八重歯であれ。