直接的な性描写はありませんが青益青です。
子供が欲しい。
雪のように白い肌と、血のように赤い唇と、黒檀のような黒髪を持つ子供が。
延べられた一人分の床に、二人して座り込んでいる。
釦ひとつ外さず、タイすら緩めない侭で触れる。「睦み合う」というよりもまだ「じゃれ合う」と称した方が似合っていた。
現に益田の頬には、未だ朱色の兆しすら無い。恐らく自分も同様であろうと、青木は思っていた。
ふと見れば、長く垂れた前髪の隙間から一対の黒い瞳がじっと自分を見上げているのに気づいた。八重歯が
見えるほどぽかんと開いた口は何か言いたげで、青木は首を傾げた。
「何、益田君」
「青木さん美人ですねぇ」
「………ハァ?」
冗談にしては妙にしみじみとした呟きを聞いて、青木の眉が引き攣った。薄暗い部屋の中で、彼は何を見誤ったと云うのだろう。今夜は酒も入っていない。
熱でもあるのかと思い、一応額を触れ合わせてみる。前髪がぶつかって、さらりと軽い音がした。
「熱なんかないですよ、至って素面です」
「素面なら益々酷い。今日は切り上げて病院に行くべきだね。目医者か、頭のほうの」
「違いますよう、僕ぁ要素の話をしてるんです」
額をもぎ離し、益田は窓硝子を示した。
夜闇の中で鏡面と化した其処には、目を爛々と輝かせた益田と唖然としている青木とが映りこんでいる。
「雪のように白い肌と、黒檀のような黒髪ですよ!白雪姫じゃないですか」
「何を云ってるんだね君は」
このところ署内での書類仕事が続いた所為もあって、若干肌の色が抜けた事は認める。けれど肌の白さで云えば益田の方がずっと白い―――単に血色が悪いのだが。
だが益田は、さも重大な発見をしたかのようにはしゃぎ続けている。
「白い肌で黒髪なら、君だってそうじゃないか。僕は益田君の事を美人とか思った事無いけどね」
「僕ぁ血の巡りが悪いだけですよう。その点青木さんは」
云うが早いか、益田が上体を伸ばし青木の唇に食いついてきた。
文字通り「口吸い」だ。色気も素っ気も無く、只がむしゃらに吸いついてくる勢いに、青木は閉口する。言い方は悪いが乳を求める赤子を思わせた。
「ちょ、益田君…」
身を引いて離れようとするも、益田は退かない。青木が引き下がった分だけ、更に身を寄せてくる。終いには布団の上に倒れこんでしまい、益田に乗り上げられる格好になった。青木が抵抗を止めた頃、ようやく益田が離れた。強引に吸われた唇はじんじんと痛いほどだ。
胸の上に居る益田は、満足げににやにやと笑っている。唇の端を軽く舐める仕草が、らしくもなく獣じみていると思った。
「ほら、『血のように赤い唇』ですよ」
「君ねぇ…」
くすくすと笑う益田に呆れながらも、意趣返しのつもりで、今度は益田の下唇を食む。
肉の薄い其れは青木のものよりもいくらかひんやりとしていたが、軽く噛み締め吸い上げるうちにやや赤みを帯び始める。薔薇色を確認した青木が再び唇を寄せ掛けるも、益田は嫌がって身を引いてしまった。
其の唇に親指をなぞらせる。濡れて滑るのに、固いかさつきを感じる奇妙な感触。目を閉じている益田の睫が頬に僅かに落とす影がいやに目に付く。
「青木さん」
「なんだい」
ふっと目を開けた益田が、青木の輪郭に手を添える。頬からこめかみへとなぞり上げられ、切り揃えた黒髪がはらりと舞った。
「青木さんに似てる女の子が出来たら、僕のお嫁にくれません?」
「絶対に嫌だね」
そしてまた、笑い合う。
雪のように白い肌と、血のように赤い唇と、黒檀のような黒髪を持つ子供。
生まれる予定もない侭に、何処か深い森の中で眠り続ける。
お題提供:『キンモクセイの泣いた夜』様
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青木と益田は非生産萌えです。そして百合。
変な話ですみません…。
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