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2024/11/23 03:46 |
4月拍手お礼文
榎木津探偵が結婚するらしい」と云う噂を聞いた。

そんな訳で、せめて祝いの花束でも贈ろうかと思った益田である。
花屋で作ってもらったブーケは、大輪の薔薇や可憐なかすみ草の他にも益田が名前も知らないような花々で出来ていた。
その全てが純白で、束ねるサテンのリボンも純白。抱える益田の顔も心なしか蒼白だ。溜息を溢す度に花弁が幸せそうに揺れる。
榎木津が過去に幾人もの女性との付き合いがあったことは知っている。
天職だと云って探偵業なぞに身をやつしてはいるが、彼は名家の次男坊で、是非にと望む淑女が後を絶たないことも知っている。
其のどれもが、益田には全く無縁の世界の話だということも、勿論知っている。
頭で解ってはいるが、心が追いつかない。あの滅茶苦茶な人物を一生面倒見る女性が現れてくれたならば、めでたいことに違いないのに。
こんなに早く、結婚だなんて。

「…いつの間に…」

すれ違う人々のざわめきも気に留めず、花束を胸に抱いて歩く益田の呟きは宙に溶けて消えた。




「えと、おめでとうございます」

わさっ、と差し出された花束に、榎木津は眉をすがめた。

「…なにこれ」
「なにこれって、お祝いです」

見上げてくる鳶色の瞳が綺麗で、益田は涙が出そうになった。もう直ぐ彼の傍らには益田の知らない女性が立つのだ。
手が震えてしまい、触れ合う葉や茎がかさかさと鳴る。窓から吹き込んだ薄い薄い色の花弁が、益田の涙をさらった。

「けっ、けっ、けっこ、け」
「コケッコ?ニワトリか」
「ご、ご結婚、おめでとうございます!」

更に突き出された白い花々と益田とを、榎木津がじろじろと見比べている。

「結婚?誰が」
「榎木津さんが」
「誰と」
「いやそこまでは知りませんけど、どうせ麗しいお嬢様なんでしょう、羨ましいです」
「何時」
「何時でも予定空けますから、結婚式には呼んでくださいねぇ」
「何処で」
「もうやめてくださいよぅ、悲しいじゃないですか」

間の抜けた質問攻めに少し乾いた涙を拭えば、相変わらずの丸い瞳が其処にあった。
立ち上がった榎木津と、花束を挟んで対峙する。花の匂いに混じって馴染んだ神の気配が香る。

「マスヤマ今おめでとうって云ったじゃないか、おめでとうっていうのは嬉しい時に云うんだぞ、何故泣く!」
「さぁ、何ででしょう。僕にもとんと」
「解らないことでメソメソしない!こんなもん要らないから、返すぞカマヤマ早とちりオロカ」

押し返された花束を抱いて、益田は呆然としてしまった。
早とちり、今彼はそう云ったか。ならば自分の動揺は、衝撃は、喪失感は。
霧散した其れらを埋めるように、じわじわと安堵が込み上げて益田は笑った。

「なんだぁ、良かったぁ…」
「おめでたくなかったんじゃないか。だったらおめでとうなんて云うな、吃驚するだろうスーペリアバカオロカめ」
「もう原型とどめてないじゃないですかぁ、僕は益田ですって」
「榎木津にしてやろうか」
「え」

返事は出来なかった。唇で唇を塞がれたからだ。
春風をはらんだ薄手のカーテンがふわりと覆いかぶさり、神聖な光景のようですらある。
互いの胸の間で白い花たちが舞い、祝福の鐘のようにカウベルが鳴り、不幸にも戻ってきた和寅の悲鳴が響き渡った。


「榎木津探偵が結婚するらしい、どうやら相手は助手らしい」と云う噂が立った。
其れが中野の古書店にまで届いたのは4月も半ば過ぎのことで、
店の周辺だけで不機嫌極まる様相の冬将軍を見たものが居たとか、居なかったとか。


――――
ハッピーエイプリルフール!1コマ目でオチがバレバレです。


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2009/05/01 00:00 | Comments(0) | TrackBack() | 益田

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