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2024/11/24 01:45 |
Web拍手お返事です
Web拍手お返事です。ありがとうございます。

>蒼月様
Trick or Triat!! こんにちは。ひとりハロウィンにお付き合い頂きありがとうございます。
まずはやっとかないとと云う事で吸血鬼榎木津でした。
蒼月様もパラレルのお話を書く予定がおありということで、凄く楽しみです。
何だかんだでもう間もなくハロウィンも終わりですが、中禅寺のお話が書けるといいなぁと思っているので
もし書けましたらお読み頂けたら嬉しいです。
コメントありがとうございました。

>あやめ様
本無事に着きましたか、わざわざのご連絡ありがとうございます。
レインボー益田は青と白がお好きなんですね。青と白は「やりすぎたか!?」と書きながらやや戦慄していた二名なので、気に入って頂けて有難いです。益田の「ここがかわいい」という面を強調したいだけの本ですが、可愛がって頂ければと思います。
都電榎木津線は私自身本当に好きな本です!シロさんと一緒に本を作って、ひとりでは書けなかったことが書けました。楽しかったです。
抄録集は発行後一週間後くらいS潮社からの訴状を恐れていました(…)あの頃よりもペースは落ちましたが、これからも楽しく益田を幸せに出来たらなと思ってます。
たくさんのご感想ありがとうございました。創作する事であやめ様のご期待にお応え出来たら幸いです。どうぞお時間のある時にまた遊びにいらしてくださいませ。

>10月26日 21:25の方
志水版益田が狐っぽすぎて、狐っぽい益田と並ぶことで和寅もなんだか平成狸合戦ぽく見えたので思い切ってやっちゃいました。お読み頂いてありがとうございました。

>荻中様
こんにちは。先日は絵茶でお世話になりました。
ハロウィン企画お読みくださってありがとうございます。
第二夜は怪デザインを見て思いついたのですが、お読み頂ける方のイメージする可愛い益田と和寅でお願いしたい感じです。ハロウィンだからいいよね!と本人は乗り気でした、けもみみ。
第三夜の幽霊益田話はなんとなくなれ初め話みたいな雰囲気になりましたね。なんかうちの青木って妙にボンヤリしてますので、益田とゆるく仲良くなればいいと思ってます。
ありがとうございました。荻中様のサイト更新も楽しみにしております。

>檜扇様
こんばんは。拍手ありがとうございます。
ハロウィンと怪感想ご覧頂きましてありがとうございます。
まさかの初登場一発目で指定残りな益田が益田だなぁと思います。そうか、怪の益田は自分を弱く見せるためにいつでも泣ける能力を見につけてるんですね!それなのに肝心な時には泣けないといいです。妄想です。
そして絵の感想をいただきまして…本当に本当にありがとうございます…!嬉しい…!良かった…!あんな絵ですみません…!
お気遣い頂いて嬉しかったです。こんなサイトですが今後とも宜しくお願いします。


叩いてくださった方も、ありがとうございました。
返信不要の方もありがとうございます。嬉しさのあまり私こそ火葬寸前でした。

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2009/10/29 22:47 | Comments(0) | TrackBack() | 雑記
第五夜.或る青年の日記より

4月10日 晴れ

仕事が終わって帰ってきたら、下宿の前に大きな犬が倒れていた。
身体の割に足が細く腹が削げており、典型的な痩せ犬だったが、犬にしては鼻が長く顔つきは精悍だったように思う。目は閉じられていたから解らない。
どうしたものかと思い近寄ったが、犬は僅かに鼻を鳴らすだけで動かなかった。身体の大きさの割に何だか哀れを誘う鳴き声だったので、放っておく事も出来ず、とりあえず昼に食べ損ねた握り飯を置いてやった。犬は2、3度其れを嗅いで、危険が無いと解ったのか口を開けて食べた。2個の握り飯は、あっという間に無くなった。


4月11日 晴れ

昨日の犬はどうなっただろうと思い、道中それとなく探したが見つからなかった。身動きがとれない様子だったので、もしかしたら保健所に連れて行かれてしまったのかも知れない。
事務所に着くなり「そのわんこを何故連れ帰ってやらなかった、このバカオロカ!」と榎木津さんに酷く怒られた。僕の家は彼の家と違って大きな庭がある訳では無いのに。
その事を鳥口君に話したら、「きっと元気になって巣に帰ったんですよ」と云ってくれた。だといいのだが。


5月10日 曇り後晴れ

最終電車でようやっと帰り着いたと思ったら、駅舎の影から先日の犬が出てきて非常に驚いた。以前とはうって変わってとても元気な様子で、僕の顔を見て顔に似合わぬ甘い声で鳴いている。
今日は食べ物は無いと云ったのだが、解っているのかいないのか、僕の傍を離れようとしない。歩き出せばいつかは離れるかと思ったが、困ったことに家の横まで着いてきた。家には入れてやれない、と云うと今度は得心したようで、振り向きもせずに行ってしまった。
人に良く慣れているようだが、頭を撫でてやった時に首輪が無いことに気が付いた。


6月8日 晴れ

今日は仕事が早く終わって嬉しい。和寅さんも居ないし榎木津さんもどこかに出かけてしまっているので、勝手に帰る事が出来た。
そしたらあの犬に会った。遅い夕食を買った帰りだったので、食事の匂いに気が付いたのかも知れない。折角なので一緒に食べようと思い、公園に立ち寄ってベンチで食べた。焼いた豚肉を分けてやったら、地面に置く前に手から食べた。本当によく慣れた犬だが、肉を噛むたびに大きな口から覗く牙が怖くないと云えば嘘になる。


7月7日 雨

折角の七夕なのに、生憎の雨だった。鬱憤晴らしにと思い、青木さんと鳥口君を飲みに誘う。二人とも快諾してくれて、久しぶりに楽しい夜を過ごした。


7月22日 晴れ

野犬狩りの噂を耳にした。
教えてくれた魚屋のおじさんは、ここ最近界隈で巨大な野良犬が出ているので、人的被害が出る前に何とかしなければいけないと云っていた。きっと僕が時々見かけるあの犬の事を云っているのだろう。そういえばここしばらくあの犬を見かけていない。あれほど大きな犬だ、凄く目立つに違いない。もう捕まってしまったのだろうか。捕まっていないにしても、飢えているのではないか。


8月4日 雨

先月の飲み会が楽しかったので今月もやろうと思い薔薇十字団を誘ったが、鳥口君には断られてしまった。流石に明日というのは急すぎただろうか。青木さんと相談して、やはり全員集まっている時にしようという話になり、では来週ではどうかと誘い直したら今度は快諾してくれた。


8月5日 晴れ時々曇り

あの犬に会った。日記を辿ってみると、どうも二ヶ月ぶりらしい。だから驚くよりも先に良くぞ生きていてくれたという気分になってしまった。この際だからと、ここに居たら捕まって殺されると説明してやった。犬に人間の言葉で言い聞かせると云うのもこうして書いてみると妙な話だなぁと思う。
けれどもあの犬は、何だか僕の話をちゃんと理解しているのではないかという気がするのだ。僕が話している時、あの精悍な瞳はちゃんと僕の顔を見ている。


8月10日 曇り

約束通り薔薇十字団の三人で飲みに行った。いつものことだが鳥口君は腹が空いていたようで、がつがつ音がしそうなほど良く食うので「犬みたいですね」と云ったら咳き込んでいたのが可笑しかった。
その流れで例の犬の話をしたのだが、やはりあれが野良犬である限り社会的に駆除される定めは避けられないであろうと云う事で話が終わってしまった。あんなに良く慣れた犬なのにとも思うが、確かに考えてみれば犬離れした体格だったような気もする。良く見れば愛嬌がある良い顔をしているのだが、そんな事を飼い主でも無い僕が云ってみても仕方がない事なのだろう。
人目のある所に出てこなければ良いのに、と僕が云った時に、誰かが「益田君を見たら出て行かざるを得ないんでしょう、犬だから」と云ったのが妙に耳に残っている。


8月22日 晴れ 夕立あり

古い日記を読んでいて、何故あの犬が怖くないかを思い出した。月が明るかったからだ。夜闇の中から飛び出してきたらきっと僕とて正気では居られないだろうが、月が出ていたからこそ、僕を見てちぎれんばかりに尻尾を振っていたり目を輝かせている事の方に先に気づく事が出来たのだと思う。偶然かも知れないが、覚えておこう。探偵見習いを始めてからこういう些細な事にも引っかかるようになった。


9月4日 晴れ後雨

今日は満月なので来るか来るかと思っていたら、やはり来た。いつものように一目散に飛び出してくるのではなく、人目を忍んででも居るように路地からそっと現れた。撫でてやると嬉しそうに鼻面を寄せてくる。僕の頭くらいある顔が懐っこく近づいてくるのは壮観とも云えるが、こんな姿を知っているのは僕だけなのだろうから野犬狩りなんて話が出たりするんだろう。
いつもは家の前まで着いて来るのに走って行ってしまったから何かと思ったら、直ぐに大雨が降ってきた。野生の本能で気づいたのだろう。にしても、それならそれで僕にも教えてほしかった。


9月19日 晴れ

仕事が立て込んでちょっと帰らない間に、話が随分大きくなっていた。壁新聞にも思い切り手配されていて、凶悪犯が逃げたとでも思わせるような書き方だ。街の噂も凄い事になっている。職業病と云うのだろうか、厭でも耳に入ってきたものだけでも誰それの家の子供が噛まれそうになったとか、誰の家の飼い犬が争って追い払ったとか、あれは犬では無くて狼だとか、そんな声ばかりだ。あの犬は本当はとても人懐っこくて、毛もふわふわしていて、撫でると目を細めて喜ぶのだと云っている者は誰一人居なかった。


9月20日 雨

良い事を思いついた。あの犬が如何にも野良犬だから皆恐れるのだ。せめて見た目だけでも飼い犬らしくしてやれば、もし何かあっても「僕の犬だ」と云って助けてやれる。とりあえずその「もし」が無い事を祈ろう。「もし」があった場合、僕は長い距離を歩いて彼を事務所まで連れて行かなければいけなくなる。


9月23日 雨

鳥口君と喧嘩してしまった。
犬の首輪を選ぶのに付き合ってくれと云ったら、妙な顔をして「そんな事しなくたって犬は犬で解ってるでしょうから余計な事しない方がいいすよ」と苦々しく答えたのだ。まぁそれは人それぞれの主義という物だからそれそのものについて僕はどうこう云う気はなかったが、あまりにも鳥口君らしからぬ態度だったのでどうしたのだと聞いた。そうしたら思いのほか語気が荒くなり、気が付いたら険悪な空気が出来上がっていた。うやむやのまま別れ、仕方なく首輪は一人で買いに行った。遠くから見ても目立つように、赤いものを選んだ。しかし一番大きいものでも回るかどうか怪しい。僕の首にすら余る首輪なのだけれど。


10月4日 晴れ

いつもは直ぐに姿を見せるあの犬が、中々現れない。折角首輪を買ってあるのに。まさか僕の方から奴を探す事になるとは思わなかった。動物探しは慣れているのだが、夜中になるまで全然見つからなかった。あの巨体を何処に隠しているのか、甚だ疑問だ。疲れきって下宿の階段に座り込んでいる所に、申し訳なさそうにやっと現れた。
買っておいたコロッケを与えて機嫌を取ったが、首輪をつけようとした途端やにわに暴れだした。最初に会った時からこんな姿を見た事が無かったので驚いてしまい、思い切り手摺りに頭を痛打した。まだ瘤になっている。くわんくわん揺れる頭をしばらく押さえていた。
その間に逃げてしまったかと思っていたが、犬は逃げるどころか耳も尻尾も項垂れた申し訳無さそうな様子で座っていて、首輪を付けようとした時も逃げなかった。金具を嵌めてやった途端、犬は僕の手をひと舐めしてとぼとぼと何処かに消えていった。


10月5日 雨

雨なので書類仕事をしていたら、鳥口君から電話が掛かってきた。明日話したい事があるので会えないかとの事だった。特段急ぎの仕事も無いので別に良いと云っておいた。人目につくと困るので僕の家に来ると云っていたが、僕は鳥口君に家の場所を教えていただろうか。


10月6日 晴れ

鳥口君との約束の時間まで間があるので、今日の分の日記を先に書いておく。
そう云えば、退社しようとした途端爆笑しながら飛び込んできた榎木津さんが変な事を云っていた。榎木津さんは昨日鳥口君に会っているらしい。関口さんの家に夕食でも食べに行ったのだろう。
鳥ちゃんと何かあったのかと聞かれたので、喧嘩した事を知っているのかと思い「ええ、まぁ」と返事をしたらはたかれた。お前ら二人がどんな遊びをしようと興味は無いが人に迷惑をかけない程度にしろ吃驚するじゃあないかとか何とか云っていたがよく覚えていない。
まぁそこまでは良いのだが、首を絞められたのが解せない。直ぐに解放されたのでこうして日記など書いていられるのだが、「鳥ちゃんの苦しさを思い知ったか!」とか云われた。意味が解らない。僕と喧嘩をしたことが、首に詰まって苦しいとでも云うのだろうか。
階段を昇る足音が聞こえる。きっと鳥口君だろう。仲直り出来ると良いのだけれど。





―――
第五夜は狼男鳥口と益田でした。ネタがベタなので文章をちょっと冒険してみる。
解り難いので追記。鳥口は首輪を外してもらいに来たんです…。





2009/10/28 23:58 | Comments(0) | TrackBack() | 益田
第四夜.魔法を信じるかい?
例えば手にしたその箒で、誰よりも高くを飛んでみたくはない?
例えば華奢なその指先に、消えない炎を点してみたくはない?
例えば上滑ってばかりの唇で、誰をも操る言葉を口にしたくは、ないかなぁ?




くらくらと煮える鍋に一滴二滴と雫を垂らすと、鍋の中身はその度に色や匂いを変える。煮立った紫色の波間からひとつ泡が立ち上って消えたのを見計らい、司はコンロの火を消した。粗熱を取って硝子瓶に流し込む動作は果実のジャムを作る様に似ていて、可笑しいと思う。この薬は残念ながらそれほど甘いものでは無いのだ。コルクの栓をしっかり嵌め込み、棚に仕舞う。

「――お待たせ益田ちゃん。ごめんね。あの薬は火加減が大事だからさァ」
「いえそんな、僕こそ急にお邪魔しましてすみません」

ぺこぺこと頭を下げる益田の正面に、司も腰を下ろした。
益田は痩せた肩を竦めて座っていて、横に立て掛けた華奢な箒と兄弟のようで面白い。

「今日は何を教えようか?そうだな、今作った薬を益田ちゃんも作ってみるっていうのはどうかなぁ。アレ一個あると便利なのさ」
「あっ!あの、今日はですね、なんと申しますかその件に関係があるような無いようなあるような」

益田がしどろもどろでそう云うものだから、司はきょとんとしてしまった。益田という若者は此処に来る時はいつも緊張している様子をしているから気が付かなかったが、成程今日は雰囲気がやや違う。
紅茶を啜りながら言葉を待っていると、元通り肩を縮こまらせた益田がぽつりと呟いた。

「魔法使いを……辞めようと思いまして」
「――ふぅん?」

ようやっと益田の姿勢が「申し訳なさそう」だったと云う事に思い至り、司は首を傾げる。目が合った益田は益々居心地悪げに身を固めた。

「その、今まで良くして頂いたのにこんな事云いだして本当」
「ん?イヤイヤ、そりゃあ別に良いんだけどさ。どうしたのさ急に」

そう、如何にも急だ。
益田は目立って魔法の才に富んでいる訳では無い。どう贔屓目に見ても、まぁ良くも悪くも常人程度と云った所だ。話を見聞きするだけで覚えられる程勘も良くなかった。奇声を上げながら転落する彼を掬い上げたのも一度や二度の事では無い。そんな彼が不器用ながらもひとりで空を飛んだり、気配を薄くする力を得られたのは単に彼自身の努力によるものだ。司の所作を視線で追いかけ、真似てみる。彼の熱心な眼差しを色眼鏡越しに
盗み見るのは悪くなかった。
そう、才に欠ける分時間もかかっているのだ。まだささやかな力とは云え、彼の余暇の多くを費やしてやっと得た物を手放そうとする、それだけが不思議でならない。
小さくまとまってしまった身体の中、黒い瞳だけがくるくると泳いでいる。益田は前髪をそっと払い、酷く小さな声で答えた。

「その――ですね、好きな、人が……」

聞いた途端、司は自分の眼が細められるのを自覚した。
いつでも灰白い益田の頬に、僅かな赤みが昇っている。

「ああ、ああ。成程ね。はいはい。セックスすると魔力が消えちゃうって話ね」
「ちょっ、そんな」

明け透けな――そう呟くと、益田は益々顔を真っ赤に染めて項垂れた。面白い子だなァ、と司はいつもそう思う。
司は益田のカップに紅茶のお代わりを注いでやった。澄んだ水面に尖った輪郭が映りこむ。

「うん、まぁ確かに恋人出来たら忙しくなると思うけどさ、またおいでよ。そんな理由なら魔法使いは辞めなくてもいいから」
「えっ」
「迷信だもの。そんな話。それくらいで魔力が消えてちゃあ、今日まで魔法が残ってる訳無いと思わない?」

冷めた紅茶を啜る音だけが室内に響く。
目の前で益田の強張りがゆっくりと解けて行くのが、花が開くようでこれまた面白い。

「えっ、だってそんな、じゃあ司さんは」
「僕が何よ」
「いやっ、その……ははは!何でもありませんけど!」

いつもの彼がする魔女のような甲高い声では無く、乾いた笑い。笑っていない目の中で、瞳が相変わらず落ち着かずに揺れている。
司が卓上に身を乗り出してその漆黒を覗き込むと、解けたばかりの緊張が戻ってきたように益田の身体がぎしりと固まった。

「えぇー、僕童貞に見えた?傷つくなぁ。僕ぁこう見えてなかなかのもんだよ?」
「いやそんな馬鹿な!なんていうかその、見えないだけに、考え込んでしまってしまったりなんかしてしまったりですね」

ああ滑ってる滑ってる。司がくつくつと声を漏らすと、益田は更に動揺を加速させてみせた。泣き出しそうな声で訴える。

「だって司さん、最初僕に云ったじゃないですかァ。魔法使いにならないかって。僕ァてっきり」
「アハハ!別に益田ちゃんが未経験っぽいからって訳じゃないよ。優しい喜久さんはそんな事云わないさぁ。いくら思ってても」
「思ってるんじゃないすか!」

益田が不服げに身を跳ねさせた途端、彼の箒がことりと倒れた。ふらふらと飛んでくる益田の姿は硝子窓からよく見えて、司はその姿を探すのがとても好きだ。

「だってさぁ、益田ちゃんって…」

調子の良い言動と今時の若者らしく重さの無い外見とは裏腹に、驚くほど純粋なものを隠している。
ひとつふたつ注ぐ毎に姿を変えて、揺れてみたり跳ねてみたり、けれど本質は決して揺らがない。

――まるで、魔法のようじゃないか。





―――
第四夜は魔法使い司と見習い魔法使い益田でした。怪に猥談講釈場面が無かったのでかっとなってやった。





2009/10/27 23:27 | Comments(0) | TrackBack() | 益田
怪秋号買いました
24日に怪が買えなかったので、虚実織り交ぜてコミカライズ版益田を愛でるチャットというのを開催しました。その節はお付き合い頂いた皆様、本当にありがとうございました。おかげさまで次の日大型書店に走らせて頂きました。
購入済の勝ち組の方からコミカライズ益田について少々お話を伺うことが出来、チャットの空気が奇しくも漫画版アプレ益田の猥談3コマに激似な感じになったことも懐かしいです。

虚実織り交ぜたコミカライズ版まとめ
(1)榎木津と益田の最短距離は0cm
(2)益田の靴下が白い
(3)益田がキラキラしている

き…キラキラ…?
ジャンル的にキラキラのトーンを貼っていいのは榎木津だけだと思っていたのですが…いやが上にも高まる期待。

そんな訳で簡単ですが百器感想を畳んであります。
未読の方はご注意ください。









2009/10/27 03:03 | Comments(0) | TrackBack() | 雑記
第三夜.柳の下の彼
「おいテメェ、青木、大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫です。法具も、先輩の教えも、忘れてません」
「これまで俺が育ててやったんだ、霊なんぞに付け込まれるような事ァ無ぇとは思うが――テメェは情がありすぎんだよ。生きた人間にしか見えない奴も居やがる、そんな連中程祓い屋を騙す技を心得てるもんだ」

情が深すぎる点については木場も人の事は云えないと思ったが、黙っていた。厳つく骨ばった木場の顔に、いつもと違う心配の色が乗っていた事を青木は解っている。今日は青木にとって一種の卒業試験であり、祓い屋としての初めての実戦なのだから、むしろ心配して貰えて有難かったと云うものだ。
お守り代わりにとぶっきらぼうな手付きで預けられた数珠をスーツの手首に隠して、青木は夜の道を歩いている。出来合いのスーツは青木を何の力も無い青年にしか見せないが、この衣装を着ている目的は達成されている。最近は霊も随分利口になって、祓い屋でござい、と云わんばかりの格好で歩いていては姿を見せないのだと云う。仕事終わりの会社員の振りをして、何でも無い顔で青木は木場に告げられた場所へと向かった。
川の上を渡る、木組みの小さな橋。橋の中央で急流を見下ろしている男の幽霊を祓う。
それが今夜の青木に課せられた仕事だった。
真下の川に飛び込んだ男は、溺れて死んだのでは無い。見た目より浅い川の底に頭をぶつけて死んだのだ。あっと云う間すぎて、自分が死んだ事に気づけなかったようだ。肉体を失った今になっても、何度でも川に飛び込んで見せては往来の人間を驚かせているのだそうだ。頓馬な野郎だ、と木場は云っていた。

「…あれ、かな…」

気づけば往来する人波を外れ、ざあざあと流れる川の音が五月蝿い程だ。
木製の橋に足を掛けた青木は、直ぐに気が付いた。橋の中央に誰か居る。欄干に上体をもたれさせて、うつむいて流れる川を見ている。聞いた通りだ。青木が何気なく歩み寄るうち、段々幽霊の姿形が見えてきた。長い前髪が覆いかぶさって顔は解らないが、若い男のようだ。

「――こんばんは」

青木がそう呼びかけると、幽霊は顔を上げた。青褪めた細面の中、目尻だけが不思議に紅い。幽霊は青木の姿を認めると、腫らした目を丸くして驚いたように云った。

「あの――貴方、僕が見えるんですか」
「はい――何故?」
「いやお恥ずかしい話なんですけど、僕ぁずっと此処で泣いてたんです。時々人が後ろを通るんですが、声をかけてくれたのは貴方が初めてで。僕は誰にも見えないものになったんじゃないかって、ちょっと心配してたんですよね」

目を手の甲で擦りながら、幽霊は笑った。青木は口元に拳を当ててつられ笑いをする振りをしながら、男の姿を確かめる。命が無いとは思えぬほどの実体感だ。足も在る。成程、これでは騙されてしまうかもしれない――そう思った。隠した数珠を握り込む。

「どうして泣いているのか、伺っても良いですか」
「えっそんな、話す程の事も無いですし」
「此処で会ったのも何かの縁です。話す事で少しは楽になるかも知れない。勿論貴方さえ良ければ――ですが」

青木はさりげなく距離を詰め、自分も欄干に身体を預けた。見下ろす川は黒く、轟音を立てて流れている。
ともかく気づかれず横に立つ事に成功した。青木はそっとポケットに手を差し込み、一枚の紙片を引き出す。只の紙片では無い。魔力を込めた護符は、命無き者に貼り付ける事で妄執ごとこの世から引き剥がす事が出来る。いつもは先輩が作った物を使っていたが、今回は青木が自ら念を込め、作り上げた物だ。
護符を隠した青木の掌が、霊の背中にそっと触れた。

「元気を出してください。こんな処に留まっていても、貴方の為にならない」
「…はい、有難うございます」

男は護符を背中に貼り付けたまま、すんと鼻を鳴らしながらも微笑を浮かべている。
護符は力無く剥がれ落ち、音も無く宙を滑って濁流の中へと消えていった。

「………あれ?」
「どうしましたか」
「いや、何でも」

護符が効かない。青木は内心の動揺を抑えつつ、何でも無いような顔を作って闇の中を見つめた。
作り方を間違えただろうか。いや、それは無い。何度も確かめた。木場が大雑把に書き上げた護符が幾人もの霊を昇天させたのも見ている。幽霊は相変わらず、時折鼻を啜りながら隣に立っている。この実体感だ、見た目によらず大分強い霊という事なのだろう。自分の未熟な法力では相手にならなかったという話か。
落ち込んでいる場合では無い。青木は鞄の中から水筒を抜き取った。

「泣いたら喉が渇いたでしょう。酒でも如何ですか」
「なんでお酒なんか持って歩いてるんですよ。貴方真面目そうな顔して、中々悪い人ですねェ」

そう云いながらも、彼はけらけらと嬉しそうに笑っている。青木も今度はつられてでは無く、本当に笑えた。

(笑う幽霊なんか、初めて見たな)

木場に付き従っていた時は、大概は俯いて誰に聞かせるでもない恨み言を呟いているか、牙を剥いて襲い掛かってくるような連中ばかり見ていた。泣き腫らした目を細めて楽しげに笑う彼も、自分が祓い屋であると知った途端、同じようになるのだろうか。そんな姿は見たくない。青木は水筒を手渡した。
水筒の中には、神の前に供える霊酒が入っている。力で祓うのでは無く、内側から鎮めてやれば苦痛を与えずに逝かせる事が出来るはずだ。その笑顔を損なわせることも無く。

「酒席で飲みきれなくて、持ち帰ってきたんです。そんなに無いですから全部飲んでしまってください」
「そうですか?じゃあ遠慮なく」

幽霊は透明な酒を口に含み、一息に飲み干した。酒に溶け込んだ霊力はきっと彼を輪廻の輪に戻すだろう。
と、思っていたのだが。

「ああこりゃあいいお酒ですねェ。いい心持ちだなァ」
「…………あれ?」
「何か?あれ、本当に全部飲んじゃったんですけど、不味かったですか」
「いや……」

返された水筒を改めても、本当に中は空っぽだ。僅かに残った水滴からも迸るほど強い力を持っていたはずなのに。
霊は相変わらず平然として、それどころか幾分元気になったようだ。見上げてくる黒い瞳には親愛の情すら芽生え始めている。
真っ白になりかけた頭に、木場の言葉が蘇ってきた。

『いいかお前、護符だの神酒だのってモンは所詮オマケよ。俺達の仕事で最後にモノ云うのは足と、コレだ』
『コレ?』
『現場百辺って前も云ったろうが。何度でも会って、話聞いてやれ。襲い掛かってくるような奴ァどうしようもねぇが、ぽつんと取り残されてるようなやつには何か理由ってモンがあんだよ』
『情を移すなって云ったの先輩じゃないですか』
『だから、そう云う話じゃねんだよ。本当にテメェは―――』

冷たい風が吹き抜けて、傍らに立つ幽霊の前髪を浚う。まともに顕わになった顔は、物云わぬ青木を不思議そうに見ている。青木は口を開いた。

「――名前を」
「は、はい?」
「いつまでも貴方貴方では変でしょう。貴方の名前を聞かせてください」
「えぇ、何ですよ藪から棒に。いいじゃないですかそんなの、僕らァ所詮行きずりの仲で」
「確かにそうでした――今までは」

所在無げに欄干に乗っていた手を取ると、幽霊の身体がびくついた。実体感にふさわしくしっかりと握る事が出来たが、やはり酷く冷たい。その事が青木にとって妙に哀しい。

「僕は仕事で此処に来たんです。貴方に声を掛けたのも、本当は偶然じゃない――謝ります」
「そんな、謝るなんて。僕こそ何ていうか有難かったと云うか、その」
「貴方が泣かずに良くなるまで、僕は何度でも此処に来ます。ですから、名前を教えてください。貴方が僕の事を忘れてしまわないように」
「そんな――」
「僕は青木と云います。貴方は?」

見据えた瞳が、水を湛えている。眼下を流れる川のように深い漆黒。けれどその涙は、流れ落ちてしまえば透明な雫になるのだろう。
幽霊は唇を震わせながら、零すように答えた。

「ますだ――益田です」
「益田君」

青木は手を強く握り締めた。
この男がこれ以上、望まぬ死を選ばぬようにしなければならない。酒を勧めた時に見せてくれた笑顔を、曇らせないようにしなければ。
それはもはや職務を超えたところにある目標のような気もする。
そう思うだけで、握りこんだ手に熱が宿るような感じがして、青木は益々強く益田を見つめた。










今にも崩れそうな丸木橋の上で、男の怒号が響き渡る。

「青木の野郎、どこで油売ってやがんだ!」

木場はそう吠えると、力を放出し終わった護符を力任せに投げ出した。
いつまで経っても戻ってこないので探しに行ってみれば、橋から身を投げようとしている初老の男に出くわした。止めに入ってみればその身体はするりと木場をすり抜けた。条件反射的に祓ってしまってから、青木が祓うべき霊だったと云うことに気が付いた。
結果的に試験を邪魔してしまった事を謝り、ついでに遅刻に対して叱ってやろうとずっと待っているのだが、依然青木は姿を見せない。

「まだまだ卒業させられそうに無ぇな……っぐしっ!」

盛大なくしゃみが夜闇にこだまする。木場は鼻を啜り上げた。

「チキショウ、こんな夜中に外に何時間も立たせやがって」

すっかり手が冷えちまった。
木場は自分の大きな両手を擦り合わせながら、闇の中を睨み続けている。



―――
第3夜は新米祓い屋青木と結局人間だった益田でした。内容が無い話で…すみません…。





2009/10/26 23:58 | Comments(0) | TrackBack() | 益田

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