夕日もだいぶ落ち、明かりの灯った薔薇十字探偵社。そこに調査を終えた益田が戻ってきた。
「ただいま戻りました。いやあもう参っちゃいましたよ依頼人と奥さんと二号さんが鉢合わせ…って、榎木津さんは？」
「お出かけだよ。関口の旦那でもからかいに行ってるんじゃないかね」
和寅は履き掃除の手を休めることなく答える。益田のほうを見ようともしない。
なぁんだそうか、と益田は云い、書類ケースの中からばさばさと報告書やら写真やらを広げ出した。
大分使い込んだケースはまちの部分が裂けてきていて、益田は其れを補修しながら使っている。
みすぼらしいから新しい物を買ったらどうだと云われても聞き入れない。余程思い入れがあるのだろう。
塵取りに埃を集めながら、和寅は益田をしげしげと眺める。
「何と云うか、君も変わらんと云うか懲りないと云うか」
「えぇ？何の話ですよ。僕ァすっかり探偵助手として成長して」
「そっちじゃないよ」
益田がここに来てからずっと、変わらず続く朝のことを思い出す。
「相変わらず第一声が「榎木津さんは？」だ」
「あぁ――なんか前もそう云われた気がします」
「云いたくもなるよ。目隠しの衝立もとっぱらって見晴らしが良くなったにもかかわらずだ」
「いやぁ…何と云うか、居なきゃ居ないで気になりますよねェ。今日も寒いし、風邪でもひかれたら困るの僕らですし」
益田は書類を束ね、ケースの中に戻した。其の視線は、大きな窓の向こうに広がる夕焼けを見ている。
「…あーあ、榎木津さん何してんのかなァ…」
そう呟いた表情は和寅には見えなかったが、声色から幾つかの感情が読み取れてしまう程には彼との付き合いも長い。
和寅は溜息混じりに肩を落とした。
「――そう心配する事もありゃしないけどね、だって」
「そう！僕ならば此処に居るッ！」
「うわわわッ！」
益田が取り落としたケースの中から、仕舞ったばかりの書類がばらばらと飛び出した。
大きな探偵机の下から、突然榎木津が姿を現したのだ。驚くのも無理は無い。
橙色の夕陽を背に近寄ってくる榎木津の顔は、裂けたかと思うほど笑っている。
「な、何やってるんですか榎木津さん」
「其れはこっちの台詞だバカオロカ。あちらこちらで僕が居ると困るだの面倒だの吹聴して回ってるそうじゃないか」
「いや、あの、それはその」
詰問するような口調だが、和寅には解る。きっと言葉程に彼の機嫌は悪くない。
自分の主人は機嫌が良いほど厄介な男だと云う事を知っている和寅は、そっと其の場を離れ、台所へ入った。
聞き耳を立てるまでもなく、榎木津の声は良く響くのだ。
「僕に居て欲しいなら居て欲しいと云えばいいものを！」
薬缶に水を注ぎながら和寅はくつくつ笑う。背中越しに、いつしか聞き慣れた大の男の泣き声。
―――
昨年の２月拍手をセルフカバー（？）一周年ありがとうございます。
「ただいま戻りました。いやあもう参っちゃいましたよ依頼人と奥さんと二号さんが鉢合わせ…って、榎木津さんは？」
「お出かけだよ。関口の旦那でもからかいに行ってるんじゃないかね」
和寅は履き掃除の手を休めることなく答える。益田のほうを見ようともしない。
なぁんだそうか、と益田は云い、書類ケースの中からばさばさと報告書やら写真やらを広げ出した。
大分使い込んだケースはまちの部分が裂けてきていて、益田は其れを補修しながら使っている。
みすぼらしいから新しい物を買ったらどうだと云われても聞き入れない。余程思い入れがあるのだろう。
塵取りに埃を集めながら、和寅は益田をしげしげと眺める。
「何と云うか、君も変わらんと云うか懲りないと云うか」
「えぇ？何の話ですよ。僕ァすっかり探偵助手として成長して」
「そっちじゃないよ」
益田がここに来てからずっと、変わらず続く朝のことを思い出す。
「相変わらず第一声が「榎木津さんは？」だ」
「あぁ――なんか前もそう云われた気がします」
「云いたくもなるよ。目隠しの衝立もとっぱらって見晴らしが良くなったにもかかわらずだ」
「いやぁ…何と云うか、居なきゃ居ないで気になりますよねェ。今日も寒いし、風邪でもひかれたら困るの僕らですし」
益田は書類を束ね、ケースの中に戻した。其の視線は、大きな窓の向こうに広がる夕焼けを見ている。
「…あーあ、榎木津さん何してんのかなァ…」
そう呟いた表情は和寅には見えなかったが、声色から幾つかの感情が読み取れてしまう程には彼との付き合いも長い。
和寅は溜息混じりに肩を落とした。
「――そう心配する事もありゃしないけどね、だって」
「そう！僕ならば此処に居るッ！」
「うわわわッ！」
益田が取り落としたケースの中から、仕舞ったばかりの書類がばらばらと飛び出した。
大きな探偵机の下から、突然榎木津が姿を現したのだ。驚くのも無理は無い。
橙色の夕陽を背に近寄ってくる榎木津の顔は、裂けたかと思うほど笑っている。
「な、何やってるんですか榎木津さん」
「其れはこっちの台詞だバカオロカ。あちらこちらで僕が居ると困るだの面倒だの吹聴して回ってるそうじゃないか」
「いや、あの、それはその」
詰問するような口調だが、和寅には解る。きっと言葉程に彼の機嫌は悪くない。
自分の主人は機嫌が良いほど厄介な男だと云う事を知っている和寅は、そっと其の場を離れ、台所へ入った。
聞き耳を立てるまでもなく、榎木津の声は良く響くのだ。
「僕に居て欲しいなら居て欲しいと云えばいいものを！」
薬缶に水を注ぎながら和寅はくつくつ笑う。背中越しに、いつしか聞き慣れた大の男の泣き声。
―――
昨年の２月拍手をセルフカバー（？）一周年ありがとうございます。
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現在のお題【10-01・イ】達成で、当ブログの益田数が丁度100になります。
いつも遊びに来てくださる益田好きさんのお陰です。本当にありがとうございます。
ささやかではありますが日ごろのご恩返しとして、今回もリクエストを募集したいと思います。
「書かせてやるよ！」と仰る方は、拍手から指定をお願い致します。
前回構ってくださった方も、初めての方も、皆様どうぞ気兼ねなくお申し付けくださいませ。
↑ここからどうぞ。
募集期間：６月１３日～６月２０日
基本的にリク内容は自由ですが、以下の内容はご了承頂ければと思います。
※シチュエーションが重複した場合は、こちらで一つに纏めさせて頂きます。
※管理人の理解を超える域での激しい性描写や、当ブログの趣旨に反する内容は受け付けられない場合がございます。
頂いたリクエストは、締め切り後当記事内に表示し、順番に消化して参ります。
前回のように毎日更新という訳には行かないかもしれませんが、気長にお待ち頂けると嬉しいです。
※追記（６月１４日）
早速リクエストを頂き、嬉しいです。ありがとうございます。
今回は榎益榎以外のリクを前回以上に多く頂いているのですが、当ブログは基本榎木津と益田の話を中心に扱っておりますので、あまりカップリングが多岐に渡ってしまいますと、私の力量が及ばずにキャラの当て馬化が発生してしまう事になりかねません。
それではそのキャラがお好きな方は勿論、キャラ自体にも申し訳無いので、６月１４日１１時以降のリクエストは「榎木津と益田を主題とした話のお題」に絞らせて頂きたいと思います。只今までに頂きましたリクエストは受付致しております。
ご恩返し企画のはずが門戸を狭めてしまったようで申し訳ありません。
まだリクエストは募集中ですので、「この趣旨でも良いよ！」と仰る方は是非お申し付けくださいませ。
６月１７日現在、10本のリクエストを承っております。
邪魅文庫版発売で、益田好きさんがまた増えたら良いなぁと思っております。
益田への愛情を、リクエストという形で少し分けて頂けたら幸いです。どうぞ宜しくお願い致します！
いつも遊びに来てくださる益田好きさんのお陰です。本当にありがとうございます。
ささやかではありますが日ごろのご恩返しとして、今回もリクエストを募集したいと思います。
「書かせてやるよ！」と仰る方は、拍手から指定をお願い致します。
前回構ってくださった方も、初めての方も、皆様どうぞ気兼ねなくお申し付けくださいませ。
↑ここからどうぞ。
募集期間：６月１３日～６月２０日
基本的にリク内容は自由ですが、以下の内容はご了承頂ければと思います。
※シチュエーションが重複した場合は、こちらで一つに纏めさせて頂きます。
※管理人の理解を超える域での激しい性描写や、当ブログの趣旨に反する内容は受け付けられない場合がございます。
頂いたリクエストは、締め切り後当記事内に表示し、順番に消化して参ります。
前回のように毎日更新という訳には行かないかもしれませんが、気長にお待ち頂けると嬉しいです。
※追記（６月１４日）
早速リクエストを頂き、嬉しいです。ありがとうございます。
今回は榎益榎以外のリクを前回以上に多く頂いているのですが、当ブログは基本榎木津と益田の話を中心に扱っておりますので、あまりカップリングが多岐に渡ってしまいますと、私の力量が及ばずにキャラの当て馬化が発生してしまう事になりかねません。
それではそのキャラがお好きな方は勿論、キャラ自体にも申し訳無いので、６月１４日１１時以降のリクエストは「榎木津と益田を主題とした話のお題」に絞らせて頂きたいと思います。只今までに頂きましたリクエストは受付致しております。
ご恩返し企画のはずが門戸を狭めてしまったようで申し訳ありません。
まだリクエストは募集中ですので、「この趣旨でも良いよ！」と仰る方は是非お申し付けくださいませ。
６月１７日現在、10本のリクエストを承っております。
邪魅文庫版発売で、益田好きさんがまた増えたら良いなぁと思っております。
益田への愛情を、リクエストという形で少し分けて頂けたら幸いです。どうぞ宜しくお願い致します！
３月２１日～３月２５日の企画内で承りましたリクエストです。ありがとうございました！
タイトルが決まっていなかったものはこちらの判断でつけさせて頂きます。
全部消化した時点で『更新履歴＆お題まとめ』のページからリンクを貼りなおします。
「リクエストしたのに入ってない！」という方は、恐れ入りますがもう一度拍手からお願い致します。
１．木漏れ日 （外で昼寝する榎木津と益田）
２．目隠し鬼 （榎木津に前髪をくしゃっとかき上げられる益田）
３．過ぎる季節を追う季節 （榎木津の車で出かける２人）
４．そのぬくもりに用がある（やきもちを焼く榎木津）
５．不可能（甘々ラブラブな榎益／性描写あり）
６．暇を持て余した神々の遊び（榎木津とマスカマダ・カマスカス）
７．わすれもの（益榎益←亀井）
８．林檎と蜂蜜（依頼人の奥様に食べられかける益田とその記憶を視て嫉妬する榎木津）
たくさんのご協力、ありがとうございました！
タイトルが決まっていなかったものはこちらの判断でつけさせて頂きます。
全部消化した時点で『更新履歴＆お題まとめ』のページからリンクを貼りなおします。
「リクエストしたのに入ってない！」という方は、恐れ入りますがもう一度拍手からお願い致します。
１．木漏れ日 （外で昼寝する榎木津と益田）
２．目隠し鬼 （榎木津に前髪をくしゃっとかき上げられる益田）
３．過ぎる季節を追う季節 （榎木津の車で出かける２人）
４．そのぬくもりに用がある（やきもちを焼く榎木津）
５．不可能（甘々ラブラブな榎益／性描写あり）
６．暇を持て余した神々の遊び（榎木津とマスカマダ・カマスカス）
７．わすれもの（益榎益←亀井）
８．林檎と蜂蜜（依頼人の奥様に食べられかける益田とその記憶を視て嫉妬する榎木津）
たくさんのご協力、ありがとうございました！
６月１３日～６月２０日の企画内で承りましたリクエストです。ありがとうございました！
タイトルが決まっていなかったものはこちらの判断でつけさせて頂きます。
全部消化した時点で『更新履歴＆お題まとめ』のページからリンクを貼りなおします。
「リクエストしたのに入ってない！」という方は、恐れ入りますがもう一度拍手からお願い致します。
１．アスティグマティズム（司×益田）
２．分岐（邪魅後で山下と益田）
３．かりそめ玉座（女王様益田と下僕な榎木津の榎益）
４．不可視条約（性的な司と益田）
５．梅雨寒（肌寒い時に暖めあってみる榎木津と益田）
６．お医者様でも草津の湯でも（益田のご機嫌をとる榎木津）
７．誰も寝てはならぬ（榎木津と寝た翌日に青木と寝る益田）
８．君は太陽（海辺できゃっきゃと戯れる榎益）
９．下手の考え休むに似たる（益田の話をする榎木津と中禅寺）
10．厭な探偵（女装攻）
たくさんのご協力、ありがとうございました！
タイトルが決まっていなかったものはこちらの判断でつけさせて頂きます。
全部消化した時点で『更新履歴＆お題まとめ』のページからリンクを貼りなおします。
「リクエストしたのに入ってない！」という方は、恐れ入りますがもう一度拍手からお願い致します。
１．アスティグマティズム（司×益田）
２．分岐（邪魅後で山下と益田）
３．かりそめ玉座（女王様益田と下僕な榎木津の榎益）
４．不可視条約（性的な司と益田）
５．梅雨寒（肌寒い時に暖めあってみる榎木津と益田）
６．お医者様でも草津の湯でも（益田のご機嫌をとる榎木津）
７．誰も寝てはならぬ（榎木津と寝た翌日に青木と寝る益田）
８．君は太陽（海辺できゃっきゃと戯れる榎益）
９．下手の考え休むに似たる（益田の話をする榎木津と中禅寺）
10．厭な探偵（女装攻）
たくさんのご協力、ありがとうございました！
Web拍手お返事です。有難うございます。
＞林檎様
「２．恋愛感情って～」及び拍手文へのご感想有難うございます。
２つ纏めてのお返事になってしまいます事をお許しください。鈍臭くてすみません…。
榎木津のうっかり告白というのはどうだろうと思いついて書いた話でした。思いのほか発展しなかった…益田が受け流してしまいました。このへんの流れはまた今後の更新で掘り下げていけたらいいなと勝手に思っております。
拍手文は去年の２月のリメイクです。見比べて書きながら成長の無さ加減に青息吐息でしたが、益田や榎木津がこういう時にどうするかな？という想像のバリエーションは増えてきたように思います。かと云って我欲に走るあまり結論を急いだり、「これはないだろう」という事をさせてしまわないよう、初心を忘れずのんびりとやっていきたいと思います。とりあえずは原作の再読ですね（笑）
一年間ありがとうございました、今後とも宜しくお願い致します。有難うございました。
＞蒼月様
こんばんは、いつもご感想有難うございます。お返事が遅れてしまい、申し訳ございません。
慣れたつもりでやっぱり慣れないマスヤマ萌えなんです。最後の一線（性的な意味ではなく）は譲らない芯の強さというかオロカさ加減というか、そういったものが好きです。どうにかほだされてくれるといいんですが、ねぇ（他人事？）
拍手文もお読み頂けて嬉しいです。先月といい今月といいお題小説とのテンションが違いすぎですが、当ブログにはよくあることと云う事でお目こぼし頂ければ…。うちの子自慢する榎木津が好きですみません。石榴と同列か、益田よ。
「２．恋愛感情って～」は、ハンティング的に榎木津が益田狙いな訳では無く、ただ好きなんだよと、そう云う事が書きたかったので、蒼月様に暖かなご感想を頂けて嬉しかったです。これからもゆっくりですが頑張ります。有難うございました。
叩いてくださった方も、ありがとうございました。
ものすごく遅れてしまいましたが、冬コミ新刊の通販を始めました。「今!?」って感じで申し訳ありません。
オフラインカテゴリの方に要綱を記載しておりますので、ご希望の方がいらっしゃいましたらお声おかけください。お待ちしております。
なお、合同誌『四季折ジェンカ』は私の手元に在庫がございませんので、お申し出頂いても別々の発送になってしまうかと思います。ご了承ください。
＞林檎様
「２．恋愛感情って～」及び拍手文へのご感想有難うございます。
２つ纏めてのお返事になってしまいます事をお許しください。鈍臭くてすみません…。
榎木津のうっかり告白というのはどうだろうと思いついて書いた話でした。思いのほか発展しなかった…益田が受け流してしまいました。このへんの流れはまた今後の更新で掘り下げていけたらいいなと勝手に思っております。
拍手文は去年の２月のリメイクです。見比べて書きながら成長の無さ加減に青息吐息でしたが、益田や榎木津がこういう時にどうするかな？という想像のバリエーションは増えてきたように思います。かと云って我欲に走るあまり結論を急いだり、「これはないだろう」という事をさせてしまわないよう、初心を忘れずのんびりとやっていきたいと思います。とりあえずは原作の再読ですね（笑）
一年間ありがとうございました、今後とも宜しくお願い致します。有難うございました。
＞蒼月様
こんばんは、いつもご感想有難うございます。お返事が遅れてしまい、申し訳ございません。
慣れたつもりでやっぱり慣れないマスヤマ萌えなんです。最後の一線（性的な意味ではなく）は譲らない芯の強さというかオロカさ加減というか、そういったものが好きです。どうにかほだされてくれるといいんですが、ねぇ（他人事？）
拍手文もお読み頂けて嬉しいです。先月といい今月といいお題小説とのテンションが違いすぎですが、当ブログにはよくあることと云う事でお目こぼし頂ければ…。うちの子自慢する榎木津が好きですみません。石榴と同列か、益田よ。
「２．恋愛感情って～」は、ハンティング的に榎木津が益田狙いな訳では無く、ただ好きなんだよと、そう云う事が書きたかったので、蒼月様に暖かなご感想を頂けて嬉しかったです。これからもゆっくりですが頑張ります。有難うございました。
叩いてくださった方も、ありがとうございました。
ものすごく遅れてしまいましたが、冬コミ新刊の通販を始めました。「今!?」って感じで申し訳ありません。
オフラインカテゴリの方に要綱を記載しておりますので、ご希望の方がいらっしゃいましたらお声おかけください。お待ちしております。
なお、合同誌『四季折ジェンカ』は私の手元に在庫がございませんので、お申し出頂いても別々の発送になってしまうかと思います。ご了承ください。