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2024/11/23 04:02 |
2月拍手お礼文
夕日もだいぶ落ち、明かりの灯った薔薇十字探偵社。そこに調査を終えた益田が戻ってきた。

「ただいま戻りました。いやーもう参っちゃいましたよ依頼人と旦那さんとその愛人が鉢合わせ…って、榎木津さんは?」
「先生ならお出かけだよ。またどうせ中禅寺さんのところでしょう」

和寅は拭き掃除の手を休めることなく答える。益田のほうを見ようともしない。
なぁんだそうか、と益田は言い、書類ケースの中からばさばさと報告書やら写真やらを広げ出した。
「他言無用」とわざわざ記された探偵社専用のケースは益田以外に誰も使っていないものだ。
以前物置からこれを探し出した益田が「これじゃどっちが探偵かわかりゃしませんよねェ、なァんて」と言いながらも機嫌よく積もった埃を払っているのを和寅は見た。
役目を終えた雑巾をバケツに落とし、和寅は益田をしげしげと眺める。

「健気だねェ、他人事ながら涙が出るよ」
「でしょう?僕ぁ依頼人に好かれる探偵助手になろうと」
「そっちじゃないよ」

益田がここに来てからずっと、変わらず続く朝のことを思い出す。

「いつも第一声が「榎木津さんは?」だ」
「え。え、そうですか?」
「そうだよ全く。居るか居ないか位見ればわかるだろう、そんなに広い事務所じゃないんだから」
「いや万が一ってこともあるでしょう。奥で寝てるとか、隠れてるとか。」
「先生がいないと何か困ることでもあるのかね」
「まさか!いや困ることも多いんですけど今なんかは別ですよ。榎木津さんがいない方がこっちの仕事がはかどりますし、ねェ。和寅さんも喋ってないで掃除の続きをしててくださいよ。僕ぁあの人が戻ってこないうちにこれを片付けてしまわないと」

そう言う益田の手は書類を束ねたり縦にしたり横にしたりしているだけだ。仕事をしているフリをしているのだと、すぐに知れた。
彼をからかいたくなる雇い主の気持ちもわかる。

「そうだね、出来るだけゆっくりやった方がいいよ。先生に叱って貰える」
「ンな、何言ってるんですかもう、僕にもお茶くださいよ!」



丸い月が浮かぶ時間帯になって、ようやく榎木津が戻ってきた。

「ただいまァ!…なんだ、馬鹿がいないな」
「益田君なら帰りましたよ」

薬缶に水を注ぎながら和寅はくつくつ笑う。背中越しに、なァんだとつまらなそうな声。



――――
和寅だけが知っている互いの不在に萌え。



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2009/03/01 01:18 | Comments(0) | TrackBack() | 益田

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